令和6年最新版 歯科疾患実態調査で見る日本のむし歯・歯周病の現状と課題

令和6年最新版 歯科疾患実態調査で見る日本のむし歯・歯周病の現状と課題

この記事では、令和6年最新版の歯科疾患実態調査をもとに、日本人のオーラルヘルスの現状を解説します。

               
日本人の多くが抱える、むし歯や歯周病の悩み。令和6年の最新データによると、年齢や性別によってその傾向は大きく異なります。本記事では、厚生労働省の歯科疾患実態調査をもとに、日本のオーラルヘルスの現状と課題についてわかりやすく解説します。

歯科疾患実態調査とは? 令和6年の調査意義と特徴

国民の健康増進は、日本社会において重要な課題の1つです。なかでも「歯科疾患実態調査」は、日本人の口腔衛生の実態を明らかにするために行われる、極めて重要な全国調査です。厚生労働省が5年ごとに実施しており、令和6年(2024年)の調査は最新版として、過去との比較分析や新しい口腔衛生指標の導入が特徴となっています。

今回の調査では、むし歯(う蝕)や歯周病の有病率の変化だけでなく、歯磨きの習慣や口内の健康状態、歯科健診の受診状況など、幅広いデータを全国サンプルで収集しています。これらの結果から、日本全体における口内の健康課題や今後の改善に向けた方向性が明らかになってきました。

年次推移で読み解くむし歯と歯周病の現状

むし歯有病者率の劇的な減少

令和6年の調査によって、むし歯を有する人の割合が着実に減少していることがわかりました。たとえば、12歳児のむし歯の平均本数は、昭和50年代(1970年代後半)には4本を超えていましたが、令和6年の調査では1本未満(約0.6本)にまで減少しています。

この大きな改善は、フッ化物配合の歯磨き剤の普及や、学校や地域における口腔衛生教育、そして国民全体のセルフケア意識の高まりが背景にあります。「むし歯のない12歳児」という目標も、現実的な水準に近づきつつあります。

成人・高齢者における歯周病の根強い課題

一方で、成人や高齢者の歯周病(歯肉炎・歯周炎)は依然として大きな課題です。令和6年時点のデータでは、35歳以上の約5割、65歳以上では6割近くの人が、歯周ポケットが4mm以上という進行した歯周病の兆候を有していると報告されています。

むし歯の予防には一定の成果が見られる一方で、歯周病は依然として深刻な課題となっています。とくに加齢に伴い発症リスクが高まるうえ、糖尿病や心臓疾患といった生活習慣病とも深く関係していることが明らかになっています。まさに「国民病」といえる歯周病への対策は、今後の歯科医療や健康づくりにおいても、重要なテーマの1つといえるでしょう。

年齢・性別での違い

歯周病の罹患リスクには、年齢だけでなく性別による差も見られました。調査結果によると、男性のほうが女性よりも歯周病にかかるリスクが高い傾向があります。これは喫煙率や生活習慣の違いに加えて、20~50代男性の歯科健診の受診率が他の層よりも低いことが一因と考えられます。

また、最近では20~30代の若い世代においても初期の歯周病が見られるようになっており、超高齢社会の進行を見据えて、全年代を対象とした予防歯科の取り組みがいっそう求められます。

疾患人口の変化要因—社会・生活習慣と予防歯科の影響

むし歯減少の背景

むし歯の患者数が減少している主な要因は、セルフケア意識の高まりとフッ素の普及です。昭和後期から平成にかけて、予防歯科分野における公衆衛生活動が活発になり、保護者や教育現場、歯科医療従事者が一体となって「むし歯予防」の情報発信を続けてきました。その結果、家庭での歯磨き習慣や定期検診の受診率も着実に向上しています。

さらに、砂糖の摂取量が減ったことや、間食スタイルの変化もむし歯リスクの低下に貢献しています。とくに、給食後の歯磨きの奨励やフッ化物洗口の導入といった、学校現場における「一次予防」の取り組みが大きな成果を上げました。

歯周病増加の要因

一方、歯周病の増加には、生活習慣病との関連や超高齢社会の進行といった要素が影響しています。糖尿病や喫煙、ストレス、口呼吸など、現代人特有の生活習慣が歯周病のリスクを高めていると考えられます。また、高齢になると免疫力が低下しやすく、歯周病にかかりやすくなります。加齢により手先が不自由になることで、歯磨きなどのセルフケアが難しくなる点も見逃せません。

こうした背景を踏まえると、「80歳で20本の歯を保つ」ことを目標とした「8020運動」は、今後さらに重要性を増していくと考えられるでしょう。

日本人の歯磨き頻度とセルフケア実態

歯磨き習慣の変化

令和6年の調査によると、1日2回以上歯を磨く人の割合は全国平均で82.0 %に達しています。2000年代初頭は7割未満であったことを考えると、確実な向上が見られます。

しかし、毎日の歯磨きだけでは、むし歯や歯周病を完全に予防するのは難しいのが現実です。厚生労働省の調査では、「デンタルフロス」や「歯間ブラシ」といった補助清掃用具を使った経験のある人は、全体で54.2%とされています。

また、性別で見ると女性のほうがこれらの用具を使用している割合が高く、とくに30〜70代の女性では7割近くが日々のケアに歯間ケアを取り入れていることがわかりました。

こうしたことから、むし歯や歯周病の一次予防には、歯磨きの回数だけでなく、補助清掃用具の活用が今後ますます重要になるといえるでしょう。

歯や口の状況—平均残存歯数と口腔健康意識

日本人の平均残存歯数と推移

令和6年の調査によると、40歳代の平均残存歯数は28.0本、60歳代では24.6本という結果でした。かつては「40歳代で24本、60歳代で16本程度」とされていた過去データと比較すると、残存歯の本数は大きく改善しています。

この背景には、定期的な歯科健診の受診率向上や、オーラルケアに対する意識の高まりがあると考えられます。また、インプラントや義歯の技術が進歩したことにより、残っている歯への負担が軽減された点も要因の一つです。

年代が上がるほど「気になるところがある」人が増加

自分の歯や口の状態について「気になるところがある」と答えた人の割合は、全体で42.2%にのぼりました。とくに50代以降では半数を超えており、50〜54歳では54.4 %と最も高い数値となっています。

一方、10〜14歳の層では18.5 %にとどまり、年代によって大きな差が見られました。年齢を重ねるにつれて、歯や口に関する自覚症状が増える傾向にあることがわかります。だからこそ、若いうちからの予防意識と、定期的な歯科チェックの習慣づけがより重要になってくるでしょう。

歯や口の清掃状況と清掃用具の実態

日常的に歯ブラシを使用している人は97 %を超えており、「歯磨き」は多くの人にとって習慣化されているといえます。一方で、デンタルフロスや歯間ブラシといった補助的な清掃用具を定期的に使っている人は、全体の5割程度にとどまっています。

【清掃用具の使用状況】
・歯ブラシを日常的に使用:97.2 %
・うちフロス・歯間ブラシを併用している人:54.2 %

こうした補助清掃用具は、歯ブラシでは届きにくい歯と歯の間の歯垢(プラーク)除去に有効であり、歯科診療の現場でも「セット使い」が推奨されています。また近年では、「舌クリーナー」など歯ブラシ以外のセルフケアアイテムを取り入れる人も増えており、口腔衛生に対する関心の高まりがうかがえます。

歯科健診(検診)受診の現状と受診習慣の課題

検診受診率の推移

令和6年の調査によると、国民全体の定期歯科検診受診率は約55%。「過去1年間に歯科検診を受診した者」の割合は、全体で63.8 %、男性60.6 %、女性66.5 %と報告されています。なお、平成21(2009)年に行われた調査では、定期検診の受診率が34.1 %という結果が出ています。調査内容や設問構成には違いがあるため、単純な比較はできませんが、15年間で歯科検診への関心と受診率が大きく向上してきたことは明らかです。

一方で、20~30代の若年層や、働き盛り世代の男性では、受診率が30~50 %台にとどまっており、依然として大きな課題が残されています。

加齢とともに有病率が高まる歯周病は、初期段階では自覚症状が少ないため、定期検診による早期発見がとくに重要です。「歯を失う最大の要因は歯周病」とされるなか、全世代的な定期検診の習慣化が今後ますます求められます。

地域格差・年代差にも要注意

都市部と地方、あるいは高齢者施設入所者と在宅高齢者との間では、歯科検診の受診率や口腔の健康状態に格差が生じているケースも考えられます。こうした地域差や生活環境による違いは、健康寿命の延伸を目指すうえでも見過ごせない課題です。今後は、地域保健や行政と連携した「歯科健診の啓発活動」や「訪問歯科診療」のさらなる推進が求められます。

今後の課題と予防歯科・オーラルケアの展望

超高齢社会とオーラルヘルスの重要性

日本は世界でも類を見ない超高齢社会へと突入しており、口の健康は全身の健康や生活の質(QOL)に大きく関与することが、近年の研究から明らかになっています。たとえば「歯の本数が多い人ほど、認知症や転倒のリスクが低い」「適切な口内ケアは誤嚥性肺炎や生活習慣病の予防につながる」といった報告も複数存在します。

65歳以上の健常者4,425名を対象とした4年間の追跡調査では、歯がほとんどない人は、認知症を発症するリスクが約1.9倍に高まることが判明しました。一方で、義歯を使用している人では、同リスクが約4割も低下する可能性が示されており、歯の有無だけでなく、噛む力の維持が重要であることがわかります。

また、別の65歳以上・過去1年間に転倒経験のない1,763名を対象とした4年間の追跡調査では、19本以下で義歯を使用していない人は、20本以上の人に比べて転倒リスクが2.5倍高くなるという結果が得られています。

このように、噛める歯を保つことは認知機能や身体機能の維持に直結しており、健康寿命の延伸を目指すうえでオーラルケアの重要性は非常に高いといえます。
80歳で20本以上の歯を保つことを目標とした「8020運動」は、国民運動として着実に成果を上げています。厚生労働省が実施した2022年の調査では、達成率は51.6 %でしたが、2024年の調査では61.5 %に上昇しました。とくに55歳以上の層では残存歯数の維持が進み、オーラルケア意識の向上がその背景にあると考えられます。

一方で、75歳以上の高齢者では現在歯数の平均が20本を下回っており、高齢期におけるさらなる予防・ケア支援の強化が課題です。今後は、フレイル(虚弱)予防や在宅・施設での口腔管理を含めた多面的な取り組みがますます重要になるでしょう。


参考:神奈川大学「歯を失って義歯を使わなければ認知症のリスクが最大 1.9 倍に」(2012年3月発表)
参考:神奈川大学「歯を失って義歯を使わなければ転倒のリスクが2.5 倍に」(2012年8月発表)
参考:厚生労働統計協会「地域在住高齢者の歯の状態と身体機能および転倒経験との関連性」(2015年9月発表)参考:厚生労働省「令和6年 歯科疾患実態調査結果の概要」

超高齢社会の鍵をにぎる「予防歯科」

これからの歯科医療・健康づくりにおいて中心となるのは、自らの日常的な「セルフケア」と、歯科医院による「プロケア」を組み合わせた「予防歯科」の取り組みです。痛くなってから・悪くなってからの治療ではなく、疾患を未然に防ぐ「予防」を重視する考え方が、ますます求められています。

すでに歯科医院におけるプロケアは、歯垢(プラーク)・歯石の除去にとどまらず、正しいブラッシング法や歯間清掃の指導、食生活や禁煙指導など生活習慣全般へのアドバイスを含む「全人的」なサポートへと広がっています。

こうした包括的なアプローチにより、効果的な「プラークコントロール」や「口内フローラのマネジメント」を実現し、むし歯や歯周病といった疾患の予防を図ることが可能となります。そして、これらは将来的な「オーラルフレイル」の予防にもつながり、超高齢化社会における健康の基盤づくりを進めるにあたって極めて重要な役割を果たします。

まとめ|令和6年の歯科疾患データがもたらす生活改善のヒント

令和6年歯科疾患実態調査の結果は、日本人の口腔衛生状態が着実に改善していることを示しています。日々の歯磨きの徹底に加え、フロスや歯間ブラシの活用、定期的な歯科健診の受診、さらには、食生活の見直しや禁煙の実践といった取り組みにより、むし歯や歯周病を予防し、より多くの歯を残すことができます。こうした日々の習慣が、健康寿命の延伸にもつながっていくのです。

今後は、
  • 全世代へのオーラルケアの普及と啓発
  • 性差や年代差の是正
  • 超高齢社会を支える予防歯科体制の強化
といった観点から、国・地域・個人が一体となった実効的な取り組みが求められます。毎日の歯磨きという小さな習慣から始めることで、ご自身とご家族の未来の健康を育んでいきましょう。

参考:令和6年 歯科疾患実態調査(厚生労働省)

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