(2023年11月13日更新)
【歯科医師監修】
口の中の粘膜に白い苔のようなものや痛みなどがある場合、「口腔カンジダ症」の可能性があります。この記事では口腔カンジダ症の概要や症状、原因、治療法について解説します。さらに「口腔カンジダ症は人にうつるのか」「口腔カンジダ症とよく似た病気はあるのか」などの気になる情報についてもご紹介します。
口腔カンジダ症とは
口腔カンジダ症とは、カンジダ・アルビカンス、カンジダ・グラブラータ、カンジダ・トロピカリスと呼ばれる、真菌(しんきん:カビ)の一種によって引き起こされる感染症です。口腔カンジダ症は出現する症状などにより「急性型」と「慢性型」の2つに分類されます。急性型には「偽膜性(ぎまくせい)口腔カンジダ症」、慢性型には「肥厚性(ひこうせい)口腔カンジダ症」「萎縮性口腔カンジダ症」などがあります(詳しい症状の違いは後ほど解説します)。
カンジダ菌は、ほかの細菌や微生物とともに口の中をはじめ体内に広く常在しており、通常は一定の数以上に菌が増えないようにほかの菌と共存しています。しかし、免疫力が低下したり、口の中が汚れていたりすると、それまで保たれていた常在菌のバランスが崩れます。その結果、カンジダ菌が増殖し、口腔カンジダ症を発症します。
ほかにも長期間にわたるステロイド剤や抗生物質の使用などでも発症することがあります。
口腔カンジダ症の症状
では、実際に口腔カンジダ症になると、どのような症状が見られるのでしょうか。ここでは、「急性型」の偽膜性口腔カンジダ症と、「慢性型」の肥厚性口腔カンジタ症や萎縮性口腔カンジダ症について、主な症状を解説します。
偽膜性口腔カンジダ症の症状
口腔カンジダ症の中でも最も症例が多いとされているのが偽膜性口腔カンジダ症です。主な症状は口の中の粘膜に白い膜(白苔)のようなものが付着します。この白い膜は比較的簡単に取れます。痛みを伴うことが少ないため、自覚症状がない場合も少なくありません。ただし、この白苔をガーゼなどで拭ってはがすと、発赤やびらん、出血を伴うことがあります。
肥厚性口腔カンジダ症の症状
肥厚性口腔カンジダ症は、口の中がカンジダ菌に長くさらされるため、粘膜が肥厚して硬くなります。また、口の中にできものができたり、白くなったりすることもありますが、白い部分は容易に取れず、症状によっては外科手術が必要になることがあります。肥厚性口腔カンジタ症の多くは、萎縮性口腔カンジタ症から、移行したものが多いようです。
萎縮性口腔カンジダ症の症状
萎縮性口腔カンジダ症は、偽膜性口腔カンジダ症と異なり、口の中の粘膜に白い膜は基本的に見られません。その代わりに痛みや赤みを帯びたびらん、舌乳頭の萎縮が見られます。症状はほかにも舌がピリピリと痛くなる、口内に違和感があるなどのほか、苦みを感じるなど味覚に異常あることもあります。さらに両側の口角が赤く腫れ上がる、切れるといった口角炎を伴う場合もあります。
このようにさまざまな症状が現れる萎縮性口腔カンジダ症ですが、口内を見ただけですぐに萎縮性口腔カンジダ症と判断するのは難しく、舌痛症などほかの粘膜疾患の可能性もあります。そのため、このような症状がある場合には、早めに医療機関を受診することが大切です。
萎縮性口腔カンジダ症は、口の乾燥が原因で発症することが多いです。他にもステロイドの長期使用により発症することもあります。また、義歯には目に見えない微小な穴が開いており、汚れがつきやすく水分を含んでいるので、カンジダ菌にとって住みやすい環境です。そのため、カンジタ菌は義歯に付着しやすく、義歯の清掃不良が原因で発症することもあります。
口腔カンジダ症の主な原因
口腔カンジダ症を予防するためには、発症する原因について知る必要があります。ここでは口腔カンジダ症の主な原因について解説します。
免疫機能の低下
口腔カンジダ症は、免疫力の低下が原因で発症するケースが多いです。免疫力が下がると口内の常在菌であるカンジダ菌が増え、口腔カンジダ症を発症します。
免疫力の低下は、疲れや睡眠不足、栄養不良、過度なストレス、病気などが原因で起きやすいです。そのため、口腔カンジダ症は免疫力が低い乳幼児や高齢者が発症しやすい傾向があります。また、糖尿病、長期間にわたるステロイド使用、化学療法や放射線療法によるがん治療、白血病などの血液の病気などでも免疫力は低下するため、口腔カンジダ症の発症リスク因子となります。
適切な治療を受ければ問題ないですが、さらに免疫力が低下するとカンジダ菌の増殖が抑えられなくなり、全身に悪影響を及ぼす危険性もあるため注意が必要です。
抗生物質の使用
本来、抗生物質は体内に入って悪影響を及ぼしている細菌を殺し、感染症を治療するために使われる薬です。しかし、感染症の原因となっている菌以外にも効いてしまいます。その結果、口内細菌の環境バランスが崩れ、カンジダ菌が増殖しやすくなってしまい口腔カンジダ症を引き起こすことがあります。
抗生物質を使うこと自体は病気の原因となる細菌を死滅させ、病状を改善させるために必要です。必ずしも抗生物質の投与がカンジダ菌を増殖させる原因になるわけではありません。抗生物質の使用にあたって不安がある場合には、医師・薬剤師へ相談しましょう。
口腔ケアの不足
口の中には数百種類の細菌が生息しているといわれており、さらに細菌などが好む温度、湿度であるため、細菌が繁殖しやすい環境です。日々の歯磨きやうがいといった口内のケアが不十分な場合、口内に残った食べかすなどをエサにしてカンジタ菌が増殖します。その結果、口腔カンジダ症を発症するリスクが高まります。
また、口腔カンジダ症はドライマウスの方や入れ歯・義歯を使用している方も発症リスクが高い傾向があります。ドライマウスは、さまざまな要因で唾液分泌量が減ったことで、口内が乾燥する状態です。唾液には自浄作用や殺菌作用があるため、ドライマウスになるとこれらが働かなくなり、口腔カンジタ症の発症リスクも高くなります。また、入れ歯や義歯はカンジダ菌が付着しやすいため、口内を清潔にしておくことが、口腔カンジダ症の予防になります。
口腔カンジダ症はうつる?
先に解説したように、カンジダ菌は口の中にいる常在菌の一種です。免疫力が高い状態や口内が清潔な状態であれば、活動が抑えられており、人から人へ菌が移動したからといって必ずしも口腔カンジダ症が発症するわけではありません。
ただし、相手の免疫力が低下している状態だと、発症するリスクがあります。そのため、大切な相手を守るためにも、口の中は常に清潔を保ち、もし口腔カンジダ症が疑われるような症状が見られたときは、早めに医療機関を受診しましょう。
口腔カンジダ症の治療法
口内にカンジダ菌がいても、症状がなければ治療の必要はありません。しかし、先に挙げたような何らかの症状がある場合には治療が必要です。口腔カンジダ症は歯科医院で治療ができるため、疑わしい場合には、歯科医院を受診しましょう。
診察や検査の結果、口腔カンジダ症と分かれば治療を行います。多くの場合、治療では殺菌性のあるうがい薬や塗り薬を使用します。口腔カンジダ症でよく処方される薬としては、フロリードゲル、ファンギゾン、イトリゾールといった抗真菌薬が挙げられます。これらは、患部に塗布後にうがいをして口全体に行きわたらせます。他にもオラビ錠と呼ばれる、上顎粘膜につけることで治療する医薬品があります。
治療には通常14日~2か月ほどかかりますが、口内環境の状況によっては治療が長引いたり、再発したりするおそれがあります。
口腔カンジダ症によく似た病気
口腔カンジダ症のような症状が出ていても、口腔カンジダ症ではないと診断されることがあります。ここでは口腔カンジダ症と症状が似ている病気をご紹介します。
なお、ここで挙げる3つの病気は口腔がんにつながるおそれがあるものです。
口腔がんはその名のとおり口の中にできる悪性腫瘍であり、舌や歯ぐき、頬の内側の粘膜、唇などによくできやすいです。症状が進行すると痛みや出血といった症状も現れることがあります。そのため、日頃から口内に異常がないか口の中を観察する習慣をつけ、口の中に違和感があったら早めに歯科医院を受診しましょう。
口腔扁平苔癬(こうくうへんぺいたいせん)
「口腔扁平苔癬」とは、口の中の粘膜や舌の表面などにできる角化性の炎症のことです。
粘膜が筋状やレース状に白くなってその周囲が赤くなったり、粘膜が赤くなってその周囲を取り囲むように筋状に粘膜が白くなったりするのが扁平苔癬の特徴です。とくに中高年層の女性に多く見られます。原因は歯科用金属によるアレルギー反応やストレスなどと考えられていますが、いまだに病気の全容は明らかになっていません。
症状としては、見た目以外に痛みや荒れ、出血、不快感、味覚異常を伴うことがあります。口腔扁平苔癬は再発を繰り返す慢性疾患のため、定期的にかかりつけの歯科医院を受診し、口内環境を良好にキープすることが大切です。
白板症(はくばんしょう)
「白板症」は、舌や口の中の粘膜に見られる白い病変です。白い膜でただれているように見えることから、偽膜性口腔カンジダ症と間違われることがあります。しかし、偽膜性口腔カンジダ症であれば白い膜を軽くこするとすぐにはがれますが、白板症の場合はこすっても膜ははがれません。日がたつにつれて、粘膜が分厚くなることもありますが、多くの場合、厚くならずにそのままの状態を保ちます。白板症の主な原因は、喫煙やアルコール、入れ歯などによる刺激、ビタミン不足などが挙げられます。
白板症は発症しても痛みがないこと多く、症状があっても放置してしまう方が多いです。ですが、がん化することもあるため、気になる症状があるときはできるだけ早く歯科医院を受診しましょう。
紅板症(こうばんしょう)
「紅板症」は、舌や歯ぐきなど、口の中の粘膜に発生する赤い病変です。鮮やかな赤色で、病変とそれ以外との境界線がくっきりと分かれているため、視認しやすいのが特徴です。痛みが少ない白板症と異なり、紅板症は刺激痛を伴います。そのまま放置していると白板症よりもがん化する可能性が高いため、治療法は外科的切除が望ましいとされています。
口腔カンジダ症予防には適切な口内ケアが大切
口腔カンジダ症は誰でも発症する可能性があります。しかし、日頃から歯磨きやうがいなど適切な口内ケアを心がけ、清潔な口内環境を保つことで細菌の増殖しにくい環境を作りましょう。そして、生活習慣のリズムを整えて免疫力を高めることで、ある程度の予防ができます。もしも疑わしい症状が現れた場合には放置せず、早めに歯科医院を受診しましょう。
監修医師:樋口 均也 先生
ひぐち歯科クリニック院長。
大阪大学歯学部を卒業。インターネット医科大学口腔内科教授。
歯科治療に対する患者様の不安や恐怖心を緩和するため「痛みのコントロール」を徹底し、安全性を最重視した無痛治療を行っている。
ひぐち歯科クリニック ホームページ
https://higuchidc.com/