この記事では、歯の磨きすぎによる症状とチェックの仕方、正しい歯磨きのやり方をご紹介します。
「過ぎたるは猶及ばざるが如し」良いこともやり過ぎると不足していることと同じくらい良くないという意味です。毎日の歯磨きを丁寧にすることは歯周病やむし歯の予防につながります。しかし、丁寧に磨こうとするあまり、歯を磨きすぎてはいないでしょうか。歯の磨きすぎはかえって口内の健康を損ないかねません。本記事では歯の磨きすぎで起こるデメリットについて解説するとともに、正しい歯磨きのやり方をご紹介します。
歯の磨きすぎとは? オーバーブラッシングで起きる症状
歯磨きはオーラルケアの基本であり、歯と歯ぐきの健康を維持するために欠かせないケアです。しかし、過剰に力を入れて磨いたり、歯磨きの時間が長すぎたりすると歯や歯ぐきに傷がつきます。このような歯を磨きすぎている状態を「オーバーブラッシング」と呼びます。オーバーブラッシングによって引き起こされる主な症状は以下の4つです。
歯の表面のエナメル質が削れる
歯の表面は、エナメル質と呼ばれる半透明の硬い層で覆われています。エナメル質は、歯の表面のバリアとして機能しています。これにより、細菌やウイルス、食品中の有害な物質などが歯の内部に侵入することを防ぎ、歯の中の神経や血管に害が及ぶことを予防します。また、熱いものや冷たいもの、酸性の食品などによる外部からの刺激を防ぐ役割も担っています。
歯を強く磨きすぎるとこのエナメル質が削られ、その下にある象牙質が露出することがあります。象牙質の露出によって引き起こされる症状のひとつが「象牙質知覚過敏(ぞうげしつちかくかびん)」です。
象牙質知覚過敏になると歯が刺激に対して敏感になり、いわゆる「冷たいものがしみる」という状態を引き起こします。また、象牙質は黄色味がかっており、エナメル質が削れることで歯の黄ばみが目立つようになります。
歯ぐきが下がる
歯を強く磨いたり、歯磨きの時間が長すぎたりすると、歯ぐきに過剰なブラッシング圧が加わります。それによって歯ぐきが傷ついて下がると、本来は歯ぐきで覆われているはずの歯根が露出してしまいます。この歯ぐきがすり減って歯根が露出する症状を「歯肉退縮」と呼びます。
歯ぐきが下がって露出した歯根部は薄いセメント質でできており、エナメル質と比較すると硬度が低い組織です。そのため、やわらかくて汚れがつきやすいです。また、一度下がってしまった歯ぐきは基本的には元に戻らず、歯と歯ぐきの間に隙間ができやすくなるため、プラークや歯石がたまりやすくります。その結果、むし歯や歯周病のリスクが高くなります。
歯ぐきが分厚くなる
歯の磨きすぎは歯肉退縮の原因になるだけでなく、反対に歯ぐきがロール状に盛り上がって分厚くなることもあります。これは歯ぐきが過剰なブラッシング圧に対して抵抗することで生じる現象です。このような歯ぐきが分厚くなることを「フェストゥーン」と呼びます。
歯ぐきが分厚くなった状態は、歯と歯ぐきの間に歯ブラシが届きにくくなるため、プラークがたまりやすくなり、むし歯や歯周病のリスクが高まります。歯ぐきがロール状に盛り上がる症状が出ている場合には、歯ブラシをやわらかいものに変え、優しく磨くように意識しましょう。
歯ぐきから血が出る
歯磨きの力が強すぎると歯ぐきが傷ついて出血する場合があります。また、歯磨きによる出血は歯周病の初期症状であるおそれがあります。
やわらかい歯ブラシに変えたり、歯磨きの仕方を見直したりしても出血が続く場合には、歯周病が疑われるため、早めに歯科医院を受診して適切な治療を受けましょう。
歯を磨きすぎているかチェックする方法
歯を磨きすぎているかを確認したい場合、チェックすべき項目として挙げられるのが「歯の状態」「歯ぐきの状態」「歯ブラシの状態」です。歯磨きの際にチェックしてみましょう。ただし、歯の色や歯ぐきの状態には個人差があるため、正確に知りたい方は一度歯科医院で検査を受けてみると良いでしょう。
歯の状態を観察する
オーバーブラッシングをチェックする要素のひとつは歯の状態です。先述したように、歯の表面は半透明なエナメル質で覆われており、その下層に黄色味がかった象牙質があります。そしてエナメル質の下にある象牙質の色が透けて見えているのが通常の状態です。
エナメル質が削れていない場合、歯の色味は白色に近い傾向があります。黄色味が強い場合はオーバーブラッシングによってエナメル質が薄くなっていることが考えられます。ただし、歯の色味は体質や年齢による影響が大きく、個人差がある点に留意してください。
歯ぐきの状態を観察する
歯ぐきの状態はオーバーブラッシングの度合いを見極める上で重要な要素です。たとえば、歯周病ではないにも関わらず、歯磨きをすると毎回出血したり、歯ぐきが傷ついたりしている場合には、オーバーブラッシングが疑われます。
また、歯ぐきが下がって歯の根っこが露出している、あるいは歯ぐきが分厚くなっている場合も歯の磨きすぎが考えられるでしょう。
歯ブラシの状態をチェックする
歯ブラシの状態をチェックすれば、磨きすぎているかを確認できます。製品によって異なりますが、一般的な歯ブラシの寿命は1〜2か月で、基本的には約1か月での交換が推奨されています。
新調した歯ブラシが1か月も経たない間に毛先が広がっていて、歯ブラシの裏側から見ても毛先がはみ出ている場合には、オーバーブラッシングの可能性があります。
歯ブラシの毛先が広がっている場合には、すぐに歯ブラシを交換しましょう。このとき、歯ぐきや歯の表面を傷つけないために、歯磨きを見直すことも大切です。
毛先がやわらかい歯ブラシに交換したり、歯磨きの力加減を改善したりすることも検討してみてください。
歯を磨きすぎない歯磨きの仕方
歯の磨きすぎでも特に多いのが、力強く磨きすぎているオーバーブラッシングです。このオーバーブラッシングを防止するためには、歯磨きの正しい方法を意識しなくてはなりません。とくに意識すべきポイント3つを解説します。
歯ブラシは「ペン持ち」で磨く
歯ブラシの持ち方は大きく分けると、鉛筆を握るような「ペン持ち」と、手のひら全体で握る「パーム持ち」の2種類があります。一般的に歯磨きで推奨されるのはペン持ちです。ペン持ちはブラッシングの際に余計な力が入りにくく、歯ブラシの毛先が開きにくい点もメリットのひとつです。また、歯ブラシの動きを細かくコントロールできるため、磨き残しが少なく、むし歯や歯周病の予防につながります。
ただ、握力の弱い子どもや高齢者の場合、力が入りにくくペン持ちでは磨きにくいため、パーム持ちでも問題ありません。
また、ペン持ちでは磨きにくい部分はパーム持ちに変えます。前歯の裏側を磨くときは、歯に対して歯ブラシを縦に当てて、歯ブラシを小刻みに動かしましょう。また特に磨きづらい奥歯部分は、歯ブラシの毛先を1つ1つの歯に当てることを意識して磨きましょう。
歯ブラシは歯に軽く当てる
歯の磨きすぎを防止するためには、ブラッシング圧を意識しなくてはなりません。歯磨きのブラッシング圧は100〜200g程度の力が推奨されています。歯や手のひら、平らな面などに歯ブラシを当てて、毛先が広がらない程度が目安です。それ以上の強い力で歯を磨くと歯や歯ぐきを傷つけるリスクがあります。
また、オーバーブラッシングによって歯ブラシの毛先が広がると、プラークを効果的に除去できません。適切な力加減で磨くことは、磨きすぎの防止だけでなく、効果的にプラークを除去するためにも大切です。
歯の磨きすぎを予防する歯ブラシを使用する
口内のケアに対する意識が高い方の場合、歯をしっかりと磨くことに熱心になるあまり、オーバーブラッシングが習慣化しているかもしれません。このような場合におすすめしたいのが、歯の磨きすぎを防止する歯ブラシです。
市販でも購入することができ、強い力で歯を磨くと歯ブラシのグリップ部分がしなり、圧力を分散するとともに音で知らせてくれる歯ブラシが販売されています。電動歯ブラシでも、加圧防止センサーによって音や光で知らせてくれるものがあります。音が鳴らないように磨くことで適切な力加減を保つことができるので、歯の磨きすぎを防止しつつ、オーバーブラッシングの矯正にも役立ちます。
歯磨きは1回あたり3分程度を心がける
歯磨きをする時間も意識しましょう。極端に長い時間行う歯磨きは、歯や歯ぐきを傷つけたり、知覚過敏の症状を引き起こしたりする場合があります。一般的に歯磨きは毎食後3分程度が推奨されています。歯の本数は人によって異なりますが、永久歯は親知らずを除くと28本(親知らずを含むと32本)あり、その汚れをしっかりと落とすためには最低でも約3分の時間が必要とされます。1回あたり3分を目安に、時間だけでなく1本ずつ丁寧に磨くことを意識しましょう。ただし、歯並びの状態によっては、より多くの時間が必要になることもあります。
自分にあった歯ブラシの選び方
口内の健康状態は人によって異なるため、自分に合った歯ブラシの選定が大切です。歯ブラシを選ぶ上で確認したいのが以下に挙げる3つのポイントです。
毛の硬さをチェックする
歯ブラシの硬さには、「かため」「ふつう」「やわらかめ」の3種類があります。一般的な口内環境の方に推奨される歯ブラシの硬さは「ふつう」です。「ふつう」の歯ブラシは誰でも使いやすく、正しい歯の磨き方ができていれば、基本的に歯や歯ぐきの健康を損なう心配はありません。
歯磨きの際につい力が入ってしまう方、歯周病や歯肉炎を患っている方の場合は、歯ぐきが傷つきやすく繊細な状態になっているため「やわらかめ」の歯ブラシがおすすめです。
「かため」の歯ブラシはプラークを除去する力が高い反面、強く磨くと歯や歯ぐきを傷める可能性があります。
ヘッドの大きさを確認する
歯ブラシを選ぶ際はヘッドの大きさを確認することも重要です。歯ブラシのヘッドが口の大きさや、歯のサイズに合っていないと歯の隅々まで磨くことが難しく、磨き残しによってむし歯や歯周病の原因になる可能性があります。
歯ブラシのヘッドが大きすぎると奥歯に届きにくく、ヘッドが小さすぎると歯磨きに時間がかかるため、大きすぎず小さすぎないヘッドの歯ブラシを選びましょう。目安は奥歯2つ分の大きさです。ただし、隅々まで丁寧に磨きたい方や歯並びが気になる場合には、比較的小さめのヘッドを選ぶと磨きやすいでしょう。
柄の形状を比較する
自分に適した歯ブラシを選定する上で重要な要素が柄の形状です。歯ブラシはさまざまな企業が多種多様な製品を販売しており、柄の形状もそれぞれ異なります。柄の形状は歯ブラシの持ちやすさや使いやすさに直結するため、口内の健康を保つ上で極めて重要です。
たとえば柄の形状には湾曲しているもの、角ばっているもの、丸いもの、手元に飾りがついているものなど、さまざまな種類があります。どの形状が適しているかは口内の状況によって大きく異なるため、自分が持ちやすく使いやすい形状の歯ブラシを選びましょう。
まとめ:適度なケアが大切、歯の磨きすぎには注意しましょう!
歯を綺麗にしようとすると、歯磨きの際につい力が入ってしまったり、長い時間かけて歯磨きをしたりしてしまいます。ですが、歯の磨きすぎはかえって汚れが残ったり、歯や歯ぐきを傷つけてしまったりする原因になります。歯の磨きすぎで起きる症状として「象牙質知覚過敏」「歯肉退縮」「フェストゥーン」「歯ぐきの出血」などが挙げられます。
歯の磨きすぎを避けるためには、歯磨きは、100〜200gの力で1回3分間程度のブラッシングを心がけましょう。自分だけで難しいときは、歯の磨きすぎを防止するグッズを活用したり、歯科医院でブラッシング指導を受けたりして、歯の磨きすぎを改善しましょう。
監修歯科医師:重永 基樹 先生
東京都新宿区西落合の哲学堂デンタルクリニック院長。
1999年に愛知大学院大学卒業。2002年に現在のクリニックを開業。
「なるべく削らない・抜かない・神経をとらない」方針で治療を行っている。
哲学堂デンタルクリニックのホームページはこちら
http://tetsugakudo.com/