この記事では、中鎖脂肪酸の働きや取り入れ方について解説します。また、中鎖脂肪酸の豊富なココナッツミルクを使ったレシピも紹介しています。
中鎖脂肪酸は効率的にエネルギー源として使われる性質を持つ油脂です。体脂肪になりにくいためダイエット目的で使われる一方で、高齢者の栄養状態の改善に使われる油脂でもあります。働きや取り入れる際の注意点、中鎖脂肪酸を摂れる簡単レシピを紹介します。
中鎖脂肪酸の特徴
中鎖脂肪酸は、ココナッツ油やパーム油、母乳、乳製品などに含まれている脂肪酸のひとつです。また、中鎖脂肪酸のみから構成される「MCTオイル」という加工された油脂もあります。
一般的な植物油には、主に長鎖脂肪酸が含まれています。中鎖脂肪酸は長鎖脂肪酸の半分ほどの長さであり、通常より短いため水になじみやすいのが特徴です。
そのため、門脈から血液を通して直接肝臓に運ばれて、素早くエネルギー源となります。通常の油に比べてエネルギーへの変換効率が良く、効率的なエネルギー源となってくれます。
中鎖脂肪酸のほかに、オメガ3脂肪酸もよく聞く脂肪酸のひとつですが、中鎖脂肪酸とは別のものです。
オメガ3脂肪酸とは不飽和脂肪酸のひとつで、脂肪酸の炭素の二重結合の有無によって分類されています。一方で、中鎖脂肪酸は飽和脂肪酸に分類されるため、分類が異なるのです。
代表的なオメガ3脂肪酸であるDHAとEPAについて、下記の記事で詳しく解説しています。
中鎖脂肪酸に期待される効果・効能
中鎖脂肪酸にはどのような働きがあるのか、詳しく見てみましょう。
体脂肪の蓄積抑制を期待
中鎖脂肪酸は体脂肪の蓄積を防ぐ働きが期待されており、ダイエット目的で用いられることの多い油脂です。
中鎖脂肪酸はエネルギー源になりやすいため「食事誘発性体熱産生(DIT)」といわれる、食後の熱産生が高いことが知られています。つまり、中鎖脂肪酸の摂取により、エネルギー消費量が増加しやすいのです。
それに加えて、中鎖脂肪酸は代謝が速く、食後の血中中性脂肪を上げづらい性質もあります。
これらのことから中鎖脂肪酸には、一般的な食用油に比べて体脂肪の蓄積を防ぐ効果があるのではないかと考えられています。なかでも、肥満気味(BMI23以上)の場合に効果がみられたという報告があります。
低栄養の改善・サルコペニアの予防を期待
中鎖脂肪酸は、高齢者の栄養状態改善に用いられています。なかでも高齢者の問題である、筋肉量が低下した状態である「サルコペニア」や栄養状態が不良である「低栄養」の予防に効果が期待されています。
これは、中鎖脂肪酸は効率的にエネルギー補給ができ、食事量が少なくなる高齢者の栄養補給に役立つからです。
体脂肪蓄積を防ぐ効果と反対のように思えるかもしれませんが、医療現場では昔から栄養補給の手段のひとつとして使われています。なかでもMCTオイルは無味無臭であり、食事にプラスしても違和感なく食べられることも、よく用いられている理由のひとつです。
また、サルコペニアや低栄養になると筋肉量の低下から、食べ物を噛んだり飲み込んだりする「食べる機能」が衰えることも問題となっています。中鎖脂肪酸の摂取により筋肉量低下を防ぐことで、食べる機能の維持にもつながると考えられています。
中鎖脂肪酸の1日の摂取量の目安はある?
中鎖脂肪酸のみの1日の摂取量の目安は、示されていません。
一般的に、脂質は1日の摂取エネルギーのうち、20〜30%程度に収めるのが良いとされています。中鎖脂肪酸を含めた脂質の摂取量が、この範囲内に収まるように摂取すると良いでしょう。
ただし、日本人の平均的な摂取量を見ると、脂肪エネルギー比率が30%を超えている人の割合は、20歳以上の男性で約37.4%、女性で約46.4%です。脂質を摂りすぎている人は約3人に1人以上であり、脂質を摂りすぎないように注意が必要であるといえます。
体に良いからといって、中鎖脂肪酸を含む油脂をたくさん摂取するのは控えるようにしましょう。
中鎖脂肪酸が不足するとどうなる?
中鎖脂肪酸は、食事から補給が必要な必須脂肪酸ではありません。また、必要量も示されていないため、不足により体への影響が出るおそれの少ない成分であるといえます。
中鎖脂肪酸を含めた「脂質」という観点で考えると、脂質の摂取量が極端に不足した場合はエネルギー不足になる可能性があります。しかし、平均的な脂質の摂取量をみると十分に摂取できているため、通常の食生活では不足の心配が少ないといえるでしょう。
中鎖脂肪酸を過剰摂取するとどうなる?
中鎖脂肪酸を大量に摂取した場合、腹痛や下痢が起こる可能性が知られています。
また、素早く代謝されるといっても、たくさん摂取すればエネルギーの摂りすぎにつながります。そうすると体脂肪として蓄積され、結果的に血中中性脂肪値や悪玉コレステロール値の上昇につながり、動脈硬化のリスクなど、かえって健康に悪影響をおよぼすおそれもあります。
中鎖脂肪酸を活用したい場合は、次に紹介する注意点を参考に、上手に取り入れましょう。
中鎖脂肪酸を取り入れる際の注意点
先ほど説明した通り、中鎖脂肪酸は過剰摂取に注意が必要です。
中鎖脂肪酸を活用するなら、脂質の一部を置き換える形で取り入れるようにしましょう。例えば、ドレッシングに使われている油を置き換えたり、食事全体の脂質の量を減らしたりするなどの工夫をすると、脂質の摂りすぎを防げます。
また、中鎖脂肪酸のなかでもMCTオイルは、生食で取り入れるようにしましょう。MCTオイルは発煙点が低く、揚げ物をはじめとする加熱調理には向きません。
生で食べる場合は、手作りドレッシングにしたり、ヨーグルトにかけたりするなどの方法のほか、出来上がった温かい味噌汁や飲み物に入れる方法があります。
ただし、MCTオイルはカップ麺に使われているポリスチレン製の容器を変形させることがあります。カップ麺にプラスしたいときは、中身を別の容器に移し替えてからにしましょう。
中鎖脂肪酸が豊富な食べ物
中鎖脂肪酸はココナッツを原料とする、ココナッツ油やココナッツパウダー、ココナッツミルクに多く含まれています。
ほかにも、MCTオイルの原料として使われるパーム核油や、バターやチーズなどの乳製品があります。
中鎖脂肪酸の代表的な脂肪酸に、オクタン酸・デカン酸・ラウリン酸があるため、含有量を紹介します。
▼100 gあたりの脂肪酸含有量
中鎖脂肪酸を摂れる「柚子胡椒で作るグリーンカレー風」のレシピ
中鎖脂肪酸の豊富なココナッツミルクを使った「柚子胡椒で作るグリーンカレー風」のレシピを紹介します。
ココナッツミルクは中鎖脂肪酸はもちろん、鉄やカリウムなどの栄養素も含まれています。一般的なスーパーで手軽に手に入り、カレーやミルク煮など、普段の料理に活用しやすい点が魅力です。
今回はグリーンカレーの素を使わずに、柚子胡椒を使ってグリーンカレーを作ります。グリーンカレーには、青唐辛子やこぶみかんの葉が使われています。柚子胡椒にも青唐辛子が使われていることと、こぶみかんの葉と柚子の香りが似ていることから、グリーンカレーの味わいに似た仕上がりになるのです。
ほかには、なす、黄パプリカ、オクラを使い、ビタミンやミネラルをプラスし、よく噛んで食べられるようにしています。また、ココナッツミルクは脂肪分が多いため、タンパク源は低脂質のえびを使い、カロリーを抑えられるよう工夫しました。
<材料>(2人分)調理時間:20分
- 無頭えび:10~12尾(約150 g)
- なす:1本
- パプリカ(黄):1/2個
- オクラ:2本
- にんにく:1片
- 酒:大さじ1
- 塩:少々
- 油:大さじ1
- カレー粉:小さじ1
- 水:100 ml
- 鶏がらスープの素(顆粒):小さじ1
- (A)ココナッツミルク:200 ml
- (A)ナンプラー:小さじ1
- (A)柚子胡椒:小さじ1
- ご飯:適量
<作り方>
- えびは殻をむき背わたを除き、よく洗って水気を切ったら酒、塩をふります。なすは乱切り、パプリカは細切りにします。オクラはヘタを取ってガクをむき、サッと茹でて斜め半分に切ります。にんにくはみじん切りにします。
- フライパンにサラダ油を入れ中火で熱し、えび、なすの皮目を下にして並べます。焼き色がついたら上下を返します。
- パプリカ、にんにくを加えて炒め、全体に油がまわったらカレー粉を加えてサッと炒めます。
- 水、鶏がらスープの素を加えて煮立ったら、弱火にして2〜3分煮ます。
- オクラと(A)を加え、ひと煮立ちさせます。器に盛り、ご飯を添えます。
<ポイント>
ナンプラーを入れるとより本格的な味わいになりますが、ない場合は薄口しょうゆ(またはしょうゆ)で代用できます。
具材はたけのこやきのこもおすすめです。
中鎖脂肪酸は摂りすぎ注意!上手に活用しよう
ダイエットに良いとして注目される中鎖脂肪酸ですが、活用の仕方には注意が必要です。バランスの良い食事や脂質の少ない食事を心掛けた上で、上手に取り入れるようにしましょう。
【参考】
厚生労働省「
日本人の食事摂取基準(2025年版)」
文部科学省「
日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」
厚生労働省「
令和5年 国民健康・栄養調査」
Tsuji H et al.,"Dietary medium-chain triacylglycerols suppress accumulation of body fat in a double-blind, controlled trial in healthy men and women”,J Nutr. 2001 Nov;131(11):2853-9