この記事では、分岐鎖アミノ酸(BCAA)の働きについて解説します。また、分岐鎖アミノ酸の豊富な食べ物を使ったレシピも紹介しています。
分岐鎖アミノ酸は必須アミノ酸のなかでも、バリン・ロイシン・イソロイシンの3つを指します。筋肉に多く存在し、運動時に筋肉の働きを助けたり、筋肉を効率的に作ったりする働きが期待されています。分岐鎖アミノ酸に期待される機能や1日の摂取量の目安、簡単レシピを紹介します。
分岐鎖アミノ酸の特徴
分岐鎖アミノ酸(BCAA:Branched Chain Amino Acid)とは、枝分かれしている分子構造をもつアミノ酸のことです。分岐鎖アミノ酸には、バリン・ロイシン・イソロイシンの3つがあります。
分岐鎖アミノ酸は体内では作れず食事から摂取する必要がある必須アミノ酸で、体内では主にタンパク質として使われています。
また、分岐鎖アミノ酸の特徴的な点は、筋肉を構成するアミノ酸の約3〜4割を占めている点です。分岐鎖アミノ酸は筋肉を効率的に作ったり、筋肉でエネルギー源となったりする働きが期待されており、特に運動する場面において機能が注目されています。
同じように耳にする機会の多いEAA(Essential Amino Acids)は、必須アミノ酸のことです。タンパク質を構成するアミノ酸は20種類あり、そのうち9種類が必須アミノ酸となっています。分岐鎖アミノ酸は、そのうち3種類のアミノ酸を指します。
分岐鎖アミノ酸に期待される効果・効能
分岐鎖アミノ酸に期待される効果について、まだ研究段階のものも多くありますが、どのようなものか詳しく見てみましょう。
筋肉量アップ
分岐鎖アミノ酸は、運動中の筋タンパク質の分解を防ぐ働きや、運動後の筋タンパク質の合成を促進する働きが知られています。つまり、運動する際に分岐鎖アミノ酸を取り入れると、筋肉を減らさずに増やすことができ、効率的な筋肉量アップが期待できるのです。
スポーツ・運動・筋力トレーニングのほかにも、リハビリや高齢の方の筋力低下予防にも分岐鎖アミノ酸の働きが期待されています。
翌日の筋疲労・筋肉痛の軽減
分岐鎖アミノ酸の摂取により、運動後の翌日以降に起こる筋疲労・筋肉痛が軽減できる可能性があります。
負荷の高い運動をすると、筋肉のエネルギー代謝が活発になり、筋肉は損傷を受けます。これが筋疲労や筋肉痛の原因のひとつです。
分岐鎖アミノ酸は筋タンパク質の分解を防ぎ、筋肉の損傷を防いだり、ダメージの回復を進めたりすることで、筋疲労や筋肉痛を軽減できるのでは、と考えられてきています。
この効果を期待したいときは、運動後すぐに摂取するのが良いといわれています。
持久力アップ
分岐鎖アミノ酸は筋タンパク質の分解を防いだり、筋肉でのエネルギー源となったりするため、持久力アップになるのではと考えられています。運動を効率的に行えるため、パフォーマンス向上の目的だけでなく、運動習慣をつけたいときにも良いでしょう。
この効果を期待したい場合は、運動中に分岐鎖アミノ酸が消費されるため、運動前の摂取が良いといわれています。分岐鎖アミノ酸は摂取後30分ほどで血中濃度が上昇するため、運動前30分以内に摂取すると良いとされています。
口の働きの維持・改善にも関与
噛んだり飲み込んだりといった口の働きには、口や舌の筋肉が大切です。分岐鎖アミノ酸は筋肉の働きに関わるため、口の働きの維持・改善にも関与しています。
食べる機能のリハビリと併用して、分岐鎖アミノ酸のうちのロイシンを摂取することで、口の働きの機能の改善や、機能低下の予防につながる可能性があるとして、研究が進められています。
分岐鎖アミノ酸の1日の摂取量の目安はある?
厚生労働省による日本人の食事摂取基準では、タンパク質の1日の摂取目標量はありますが、分岐鎖アミノ酸のみの摂取量の目安は示されていません。
国際的な報告(WHO/FAO/UNU 合同専門協議会報告)では、タンパク質の必要量に対して、必要な分岐鎖アミノ酸の量は、合計して「85 mg/kg体重/日」というものがあります。これは、体重50kgであれば、必要な分岐鎖アミノ酸の量は4,250 mgという計算です。
ただし、タンパク質を不足することなく摂っていれば、分岐鎖アミノ酸のみで不足することはありません。これは、分岐鎖アミノ酸は食品のタンパク質の必須アミノ酸の約5割を占めるという特徴があり、さまざまな食べ物に含まれているからです。
一方で、先述の運動時の効果を期待するなら、分岐鎖アミノ酸を2,000〜5,000 mg摂取した場合に効果がみられたものが多くなっています。サプリメントや健康食品から分岐鎖アミノ酸を摂取する際は、パッケージに記載された1日の目安量を確認して、利用するようにしましょう。
分岐鎖アミノ酸が不足するとどうなる?
分岐鎖アミノ酸の摂取不足により筋力低下の影響があると考えられますが、これは分岐鎖アミノ酸だけでなく、アミノ酸全般が不足した際にいえるリスクです。
ただし、肝臓の機能が低下している肝硬変の方は分岐鎖アミノ酸の不足のリスクが知られています。肝硬変の状態では、体内で分岐鎖アミノ酸が使われやすいため、不足してしまいやすいのです。
分岐鎖アミノ酸の不足により体内のアミノ酸のバランスが崩れてしまうと、さまざまな影響を引き起こす原因となります。そのため肝硬変の方は、個別の状態に合わせて適切な分岐鎖アミノ酸の投与が必要とされる場合があります。
分岐鎖アミノ酸を過剰摂取するとどうなる?
通常の食事にはさまざまなアミノ酸(タンパク質)が含まれているため、分岐鎖アミノ酸だけを過剰摂取するのは考えづらいものです。
分岐鎖アミノ酸を含めたタンパク質自体を長期的に過剰摂取した場合は、腎臓への負担や、カロリーの摂りすぎから肥満につながるおそれがあります。
また、サプリメントで特定のアミノ酸を過剰に摂る場合は、健康に影響する可能性があるため注意が必要です。先ほども伝えた通り、サプリメントを利用する際はバランスの良い食事を心掛けた上で、1日の摂取量の目安を参考に取り入れるようにしましょう。
分岐鎖アミノ酸が豊富な食べ物
分岐鎖アミノ酸は、肉類・魚介類・卵・乳類などのタンパク質を多く含む食べ物に含まれています。そのなかでも、特に含有量が多いものを紹介します。
鶏ささみや豚ひれ肉などの肉類
肉類のなかでは、脂質の少ない鶏ささみや豚ひれ肉などに分岐鎖アミノ酸が多く含まれています。運動をする方はタンパク質が多く必要であるため、下記の食べ物を日々の食事に取り入れてみましょう。
▼100 gあたりの分岐鎖アミノ酸含有量
まぐろやかつおなどの魚介類
魚介類のなかでは、まぐろやかつおなどの魚に豊富に含まれています。これらの魚は分岐鎖アミノ酸以外にもDHAやEPAを摂取できるため、健康づくりに良いでしょう。
▼100 gあたりの分岐鎖アミノ酸含有量
チーズや納豆などの卵・乳類・大豆製品
そのほかのタンパク質源では、チーズや納豆に分岐鎖アミノ酸が豊富に含まれています。調理の手間がなくそのまま食べられるため、手軽なタンパク質補給に役立ってくれるでしょう。
▼100 gあたりの含有量
分岐鎖アミノ酸たっぷりの「鶏ささみの梅風味バンバンジー」のレシピ
分岐鎖アミノ酸たっぷりの「鶏ささみの梅風味バンバンジー」のレシピを紹介します。本来は中華風の味付けであるバンバンジーを、梅風味の和風の味付けにし、さっぱりと仕上げました。
分岐鎖アミノ酸はもちろん、タンパク質の豊富な鶏ささみを使っています。肉類のなかでは脂質が少なくカロリーが控えめのため、筋肉を効率的につけたい方はもちろん、ダイエット中の方や健康を意識している方にもおすすめです。
また、梅干しを使っているため、疲労回復効果が期待されているクエン酸を摂取できます。さっぱりと食べられ、疲れたときにも食べやすい味付けです。
きゅうりの歯ざわりがよく、しっかりと噛んで食べられるため、口の健康維持にもつながります。
<材料>(2人分)調理時間:20分
- 鶏ささみ:3本
- きゅうり:1本
- 梅干し(種を除いて叩く):小2個分(約10 g)
- 酒:大さじ1
- 塩:少々
- (A)すりごま(白):大さじ1
- (A)みそ:小さじ1
- (A)酢:小さじ1
- (A)ごま油:小さじ1
- (A)砂糖:小さじ1/2
<作り方>
- 耐熱皿に鶏ささみを並べ、酒、塩をふります。ラップをして電子レンジ(600W)で1分30秒加熱し、上下を返して再び1分〜1分30秒ほど、中に火が通るまで加熱します。粗熱が取れるまでそのまま冷まします。
- 1が手で触れるくらいの熱さになったら、手で食べやすい大きさに裂きます。蒸し汁を大さじ1取っておきます。
- きゅうりは千切りにします。
- 梅干しは種を除いて包丁で叩き、ささみの蒸し汁大さじ1と(A)を混ぜ合わせます。
- 器に3のきゅうりを盛って2のささみを載せ、4をかけます。
<ポイント>
梅風味のたれは、蒸した鶏むね肉や白身魚、または豚しゃぶや冷ややっこにもよく合います。蒸し汁がない場合は、水大さじ1程度を入れて味を調節してください。
筋肉に欠かせない分岐鎖アミノ酸で軽快な毎日を!
分岐鎖アミノ酸は運動や筋肉に関する効果が期待でき、スポーツをする際はもちろん、健康づくりに役立つといえる成分です。まずはバランスの良い食事を心掛け、分岐鎖アミノ酸を含むさまざまなアミノ酸が不足しないようにしましょう。
【参考】
厚生労働省「
日本人の食事摂取基準(2025年版)」
文部科学省「
日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」
FAO/WHO/UNU. Protein and amino acid requirements in human nutrition. Techni
cal Report Series 935, WHO, Geneva. 2007.
藤井航,松本絵里加,白石裕介,田部士郎,ロイシン添加栄養補助食品と舌訓練の併用が
口腔機能にきたす効果,日摂食嚥下リハ会誌 28(1):50–53, 2024