(2024年3月30日更新)
食べ物や飲み物を口にした時に味がわかりにくい時や、変わった味がする時がありませんか? それはひょっとすると、味覚障害かもしれません。味覚障害は、栄養バランスの乱れやストレス、口腔疾患、全身疾患などさまざまな原因により発症します。この記事では、味覚障害の症状や原因、検査・治療法について解説します。味覚障害の予防法も紹介するので、参考にしてみてくださいね。
味覚障害とは
味覚障害になると、食べ物の味がわからなくなったり、食べ物を口に含んでいなくても味を感じたりします。まずは、味覚障害の症状と味覚障害が起こる仕組みについて見ていきましょう。
味覚障害の症状
- 食べ物の味がよくわからない
- 食べ物の味が全くわからない
- 食べ物を口に含んでいないのに、苦味・塩味・渋味などを感じる
- 甘味・塩味・酸味・苦味・うま味といった5つの基本味のうち、1つまたは2つの味が認識できず、料理の味付けが難しい
- 甘いものを苦いと感じたり、塩味を苦味・酸味と感じたりするなど、本来とは異なる味を感じる
- 薄味の食べ物でも濃い味と感じてしまう
- 舌や口の片側だけ、味覚が低下したり全く味がわからなくなったりする
味覚障害が起こる仕組み
私たちが食べ物の味を感じるのは、味蕾(みらい)細胞という味の受容器があるからです。味蕾細胞は舌だけでなく、口の奥にある軟口蓋(なんこうがい)にも存在しています。食べ物には、味を構成する呈味(ていみ)成分が含まれています。その成分が唾液に混ざり、味蕾細胞に届くことによって味が感知されます。その後、味覚神経を介して脳の味覚中枢へと刺激が伝わり、味を感じることができるのです。
味覚障害は、さまざまな原因により、味が味蕾細胞から脳に伝えられるプロセスのどこかで異常が起きてしまい発症すると考えられています。
味覚障害の原因
味覚障害は、栄養バランスの乱れやストレス、薬の副作用、口腔疾患、全身疾患、心因性、加齢、原因不明の特発性、頭頸部領域の放射線治療などさまざまな原因で起こります。次に、味覚障害の原因を詳しく見ていきましょう。
亜鉛などの栄養素の不足
味覚障害の原因として多く挙げられるのは、亜鉛欠乏性味覚障害です。血液中の亜鉛が不足すると、味蕾細胞の新陳代謝が十分に行われなくなり、味覚障害が起きてしまいます。そのほか、ビタミンA・B2・B9、鉄、銅の不足によって引き起こされることもあります。
薬の副作用
薬の成分が唾液の分泌量を減少させたり、亜鉛の吸収を阻害したり、亜鉛の体外への排出を促進したりすることで味覚障害を引き起こすことがあります。味覚障害を起こすことがある薬は数多く、高血圧・関節リウマチ・パーキンソン病・糖尿病・アレルギー・がん・うつ病などの治療薬の一部や解熱鎮痛剤の副作用として、味覚障害が現れることがあります。薬剤が亜鉛や銅の代謝に影響を与えていると考えられていて、投与中止により味覚は回復すると言われています。
口腔・のどのトラブル
以下のような口腔・のどのトラブルでも味覚障害が見られます。
舌炎
熱い食べ物などによる舌のやけどや、義歯の不適合によって起こる外傷、ウイルス感染などで舌の表面が炎症を起こすと、味がわかりにくくなります。
舌苔
舌表面に食べかすや細菌などが溜まって舌苔(ぜったい)が厚くなると、味蕾が覆われてしまうため、味がわかりにくくなります。
ドライマウス・シェーグレン症候群
唾液分泌が低下すると食べ物の味物質が溶け出しにくくなります。そのため、口内が乾燥すると、味を感じる味蕾細胞が働かなくなります。
シェーグレン症候群とは、免疫のバランスが崩れて涙腺や唾液腺などに慢性的に炎症が生じることで、涙や唾液の分泌量が低下したり、乾燥症状が出る自己免疫性疾患です。
風邪による咽頭炎
蕾細胞は軟口蓋にも存在し、炎症や鼻づまりによる嗅覚障害により味覚障害を起こすことがあります。
歯周病
歯周ポケットから排出される膿の味や、歯ぐきの炎症箇所から出る血や膿で、他の味がわかりにくくなることがあるようです。
喫煙
味覚を感じる舌の味蕾細胞が悪影響を受けて、味覚が鈍くなります。
口内環境を定期的にチェックすることで、口内のトラブルの予防につながります。唾液検査シルハでは、水で口をすすぐだけで、口内の清潔度や歯周病などの目安となる項目がチェックできます。
シルハを検査できる医療機関は、こちらから検索できます。
ストレスなどの心因性
心因性味覚障害は、味蕾細胞の障害や味覚を伝える神経の障害ではなく、心因的要因が強く関与しています。近年、ストレス社会の影響により仮面うつ病や不安神経症などの心因性の病が増えており、それに伴い心因性の味覚障害も増加傾向にあると言われています。
風邪などによる鼻づまり
味蕾細胞からの信号に加えて嗅覚は味覚に深く関係していて、風邪などにより鼻がつまって臭いを感じなくなると、味覚障害が起こることがあります。また、発熱後に味がわからなくなってしまうケースもあります。この場合は、風邪などの症状が治まれば味覚障害も治ることが多いようです。
全身性疾患
糖尿病による神経障害や、慢性腎臓病による亜鉛排泄の増加、悪性黒色腫、慢性肝障害、腸疾患による亜鉛吸収の低下、鉄欠乏性貧血などの全身疾患でも、味覚障害になる場合があります。また、顔面神経麻痺や脳梗塞、脳出血などでも、味覚を伝達する神経経路に異常が起きて味覚障害を招くケースがあるようです。
味覚障害の検査と治療法
味覚障害の診療は主に耳鼻咽喉科が専門ですが、検査や治療を行うことが可能な歯科医院もあります。味覚障害は全身性疾患が原因となる場合もあるので、耳鼻科や歯科を窓口にして各診療科につないでもらうと良いでしょう。ここでは、味覚障害の検査と治療法をご紹介します。
味覚障害の検査
味覚障害を診断する際は、一般的に次のような検査が行われます。
問診
病状の長さや全身疾患、舌の異常の有無、薬の服用歴の確認
視診
血液検査・尿検査
唾液検査
「安静時唾液量測定」と「ガムテスト」による唾液分泌機能のチェック
味覚検査
「電気味覚検査「電気味覚検査」では舌の神経の働きを確認。
「濾紙(ろし)ディスク検査」では甘味・塩味・酸味・苦味の4種類の強さを5段階に分けて、どの段階で味を感じられるのかを確認
この他にも、必要であれば「心理テスト」・「嗅覚検査」・「唾液腺シンチグラム」などを行うことがあります。
味覚障害の治療法
亜鉛不足で味覚障害が起きている場合は、亜鉛製剤が処方されます。不足している亜鉛を補うことで、味蕾細胞の再生が促されて、味が感じられやすくなります。また、自己治癒力を高めるために漢方薬が処方されることもあります。
薬剤が原因の場合、服用中の薬の見直しが必要です。また、ストレスやうつなどの心因性からくる場合には、抗うつ薬や抗不安薬が処方されます。
味覚障害の予防法
栄養バランスの良い食事を摂ることや、唾液分泌を促すこと、定期的に口内環境をチェックすることは、味覚障害の予防にもつながります。最後に、味覚障害の予防法についてご紹介します。
亜鉛を多く含む食品を摂る
普段から亜鉛を多く含む食品を積極的に摂ることが大切です。牡蠣・アサリ・いわし・カニなどの魚介類や、牛肉・レバーなどの肉類、わかめ・ひじき・もずくなどの海藻、チーズなどの乳製品に亜鉛が多く含まれています。食事で十分に摂れない場合は、サプリメントで補うこともおすすめです。
ただし、亜鉛を過剰に摂取してしまうと健康に悪影響を及ぼす場合もあります。吐き気やおう吐、腹痛などを引き起こすことがあるため、摂取量には注意しましょう。厚生労働省の日本人の食事摂取基準(2020年版)では、1日当たりの亜鉛の摂取量として、18~74歳の男性で11mg、75歳以上の男性で10mg、18歳以上の女性で8mgが推奨されています。
唾液腺マッサージをする
食事の前に唾液腺マッサージをして唾液の分泌を促すことも、味覚障害の予防につながります。唾液量が不足するとドライマウスになり、味覚障害を引き起こすこともあります。顎周りにある耳下腺・顎下腺・舌下腺などの唾液腺をマッサージして唾液の分泌を促進しましょう。
唾液腺マッサージの詳しいやり方は、こちらの記事をご覧ください。
定期的に歯科検診を受ける
定期的に歯科検診を受けることで、味覚障害を含む口内の病気を早期に発見できます。唾液分泌量の低下や舌炎、口腔疾患、歯周病、義歯の不適合なども、味覚障害を引き起こす可能性があります。味覚障害の治療を行うことができる歯科医院もあるので、気になる方は相談してみましょう。
定期検診のときには合わせて唾液検査シルハで口内環境をチェックしてみてください。
味覚障害の原因になる口腔内の炎症がおきたり唾液分泌量が低下したりすると、口内のタンパク質やアンモニアが増加したり、緩衝能が弱くなるなど、口内環境も変化します。唾液検査シルハでは、口内環境に関する6つの項目が測定できるため、目に見えない口内環境の変化をチェックして、味覚障害やむし歯や歯周病などのトラブル予防に役立ててください。
シルハを検査できる医療機関は、こちらから確認できます。
味覚障害が現れたら医療機関で検査をしよう
味覚障害は亜鉛不足が大きな原因としてあげられますが、その他にも口腔疾患や全身疾患、ストレス、加齢など様々な原因が関係して起こることもあります。味覚障害の症状が現れたら、早めに医療機関で検査をして治療を受けましょう。口内の異常を早期発見するために、日頃から歯科医院で定期検診を受けるようにしてくださいね。
監修歯科医師:秋山志穂 先生
東京慈恵会医科大学附属病院勤務。専門は脳神経内科・歯科。日本大学歯学部卒業後、都内大学病院歯科口腔外科学教室に10年勤務。
歯科医師として働きながら北里大学医学部編入、卒業後はけいゆう病院で研修後、東京慈恵会医科大学脳神経内科学教室に入局、勤務中。
内科認定医、認定産業医、脳神経内科学会正会員、脳卒中学会正会員、日本口腔内科学会正会員。