フッ素は塗らない方がいい? 子どもに毒って本当?【歯科医師監修】

フッ素は塗らない方がいい? 子どもに毒って本当?【歯科医師監修】

(2022年11月30日公開)
【歯科医師監修】
フッ素塗布はむし歯予防の効果があるため、多くの歯科医院で勧められています。その一方で、フッ素は塗らない方がいいという声を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。実際のところ、フッ素は塗るべきかどうか気になりますよね。そこで本記事ではフッ素を塗らない方がいいという噂の理由や毒性の有無などについて詳しく解説します。

               

フッ素は塗らない方がいいと噂される理由

フッ素は歯に塗らない方がいいという噂には、どのような理由があるのか詳しく見ていきましょう。

「歯に塗るフッ素=毒」の誤解

フッ素(F)は化合物の形でもともと自然界に存在する元素ですが、分子状のフッ素(F2)は、ガラスを溶かすほどの強い作用を持っています。そのため、「フッ素は危険だから歯に塗らない方がいい」とのイメージが生まれたのでしょう。

歯に塗るフッ素は、フッ化ナトリウム(NaF)など構造の中にフッ素を持つ「フッ化物」と呼ばれる化合物の一つです。分子状のフッ素ほどの作用はなく、正しく使用すれば歯に塗っても人体に悪影響はありません。そして、フッ化物の使用量、濃度は厚生労働省によって厳しく規制されているため、市販のフッ化物と歯科医院で使用するフッ化物のどちらも安全に使用できます。

ここからは、便宜上「フッ化物=フッ素」として解説します。

フッ素を使わない歯科医師もいる?

フッ素を推奨しない歯科医師もいますが、これは安全性が低いからではなく個人的な考えに基づく判断です。フッ素の使用は法律で義務づけられているわけではないため、フッ素を使うかどうかは歯科医師と患者の判断になります。

もし、フッ素を勧めない歯科医師の元へ通院している場合は、歯科医師のアドバイスに基づいてより一層の口内ケアをすることが必要です。

知っておきたいフッ素の効果

フッ素を使用する場合は、その効果について正しく理解しておくことが大切です。効果に魅力を感じることができれば、継続的にフッ素塗布に通うモチベーションが高まるでしょう。フッ素には次の効果が期待できます。

再石灰化で初期むし歯を治す

フッ素には、歯の再石灰化を促して健康な状態に保つ働きがあります。食事をすると、むし歯菌が糖質を代謝して酸を作り、その酸が歯を溶かすことでカルシウムやリンなどのミネラルが失われます。これを「脱灰」といい、この状態が続くとむし歯になるのです。ただし、唾液の作用によって、カルシウムやリンが歯へと戻る「再石灰化」も起こるため、すぐにむし歯になるわけではありません。

フッ素には、この再石灰化を促してむし歯を予防するとともに、初期むし歯を改善する効果が期待できます。

再石灰化についてはこちらの記事でも詳しく解説しています。

歯の強化

フッ素は、歯のエナメル質と結びつくことでフルオロアパタイトという構造を作ります。その結果、むし歯菌が出す酸により脱灰をしにくくなるため、むし歯のリスクが軽減されます。

むし歯菌の活動を抑制する

フッ素には、むし歯菌の活動を抑える働きがあるため、むし歯菌が出す酸の量自体を減らす効果が期待できます。ただし、むし歯菌の量が多い場合は、フッ素で活動を抑制してもむし歯菌からそれ以上に酸が産生され歯が溶けるおそれがあるため、歯磨きをはじめとした口内ケアは欠かせません。

フッ素塗布の目安時期

フッ素塗布の効果はいずれ失われるため、むし歯予防の効果を維持したい場合は定期的に塗り直さなければなりません。フッ素塗布を受ける頻度について目安を紹介します。

子どものうちがおすすめ!ベストは1歳頃

子どものうちは、1歳頃からフッ素塗布を始めるのがおすすめです。1歳未満の子どもは歯の本数が少なくむし歯のリスクが低いため、フッ素塗布が絶対に必要とは言い切れません。1歳頃には上下左右の前歯が8本生えそろう子どもが多いため、フッ素塗布を始める時期として適切と言えるでしょう。

また、「歯磨きを嫌がるためむし歯が心配」、「小さい頃から甘いお菓子をよく食べさせている」などの場合も早めにフッ素塗布を開始した方がよいかもしれません。

大人のフッ素塗布は意味がない?

大人は子どもと比べて歯が硬くて厚いため、むし歯のリスクが比較的低いとされています。しかし、加齢や歯周病の影響で歯茎が下がると、硬いエナメル質が存在しない歯の根の部分が露出します。そこにむし歯ができるリスクが高いため、大人もフッ素塗布を受けた方がよいのです。

歯科医院でのフッ素塗布

歯科医院で使用するフッ素の濃度や、フッ素塗布を受ける頻度などについて詳しく見ていきましょう。

歯科医院で使用されるフッ素の基準値

歯科医院で使用するフッ素は、厚生労働省により9,000~123,000ppmの濃度のものと定められています。それ以上の濃度は安全性が低くなるため、人体には使用できません。一方で、市販品は500~1,500ppmの濃度にすることが定められており、歯科医院で使用できる濃度と大きく異なります。

フッ素塗布で歯科医院に通う頻度

歯科医院で行うフッ素塗布の効果は、3~4ヶ月程度は持続するといわれています。そのため、年3~4回の頻度で受けるとフッ素の効果を維持できるでしょう。歯のクリーニングやメンテナンスに通った際に、フッ素塗布も受けることもできます。

歯科医院でのフッ素塗布の流れ

歯科医院でのフッ素塗布では、まず歯のクリーニングで歯の表面を整えてフッ素を取り込みやすくします。その後、次のような方法で歯にフッ素を取り込ませます。

・綿棒で歯1本ずつフッ素を塗る
・フッ素を入れたマウストレーを5分ほど装着する
・微弱電流を流してイオンの力でフッ素を歯に付着させる

塗布したフッ素がすぐに取れてしまうことを避けるため、施術後1時間は飲食やうがい、口の中にものを入れる行為は控える必要があります。

フッ素塗布にかかる費用

フッ素塗布にかかる費用は歯科医院により異なります。1回数百円~1,000円程度に設定している歯科医院が多いでしょう。また、子どものむし歯予防に力を入れており、子どもへのフッ素塗布を無料としている歯科医院もあります。

むし歯の多発傾向の方や、エナメル質の初期のむし歯には、保険でフッ素塗布をすることも可能ですので、まずは歯科医院で相談してみてください。

自宅でのフッ素塗布

フッ素塗布は自宅でも行えますが、歯科医院で受けるフッ素塗布ほどの効果は得られないといわれています。しかしながら、歯科医院のフッ素塗布と併用することで、より高い効果が期待できるため、詳しい内容を確認しておきましょう。

家庭用で市販されるフッ素の基準値

家庭用のフッ素の濃度は、厚生労働省により1,500ppmまでと定められています。歯科医院で使用するフッ素が123,000ppmまでのため、どうしても効果は劣ります。また、子どもが誤って多く誤飲した場合でも危険がないように、2歳までは500ppm以下、6歳までは1,000ppm以下が望ましいとされています。

なお、家庭用のフッ素濃度の上限が低い理由は、歯科医師や歯科衛生士のような専門家でなければ使用方法を誤ってしまうリスクが高いためです。使用方法を誤ったとしても身体に大きな悪影響が及ばない濃度が上限となっています。

自宅でのフッ素塗布のやり方

自宅では、フッ素入り歯磨き粉、フッ素ジェル、スプレーなどでフッ素を歯に取り込ませます。歯磨きで歯の表面の汚れを取り除いてから使用しましょう。

多くの歯磨き粉にはフッ素があらかじめ入っていますが、含有量は製品によって異なります。裏面などに記載のフッ素の含有量も確認して選ぶのがおすすめです。また、歯磨き粉は歯に直接塗るわけではないため、ジェルやスプレータイプなども併用することでより効果が期待できます。しかしながら、これらの市販品を併用しても十分な濃度は得られないため、定期的に歯科医院でフッ素塗布を受けましょう。

まとめ

歯にフッ素を塗らない方がいいとの噂は、歯に塗るフッ素とは別の化合物がもつ、むし歯予防効果以外の作用が理由のようです。歯科医院で使用するフッ素はフッ化物のことで、厚生労働省が定める基準を満たしたものであれば人体に悪影響が及ぶ心配はありません。フッ素塗布を継続することでむし歯予防に繋がるため、定期的に歯科医院でフッ素塗布を受けながら、家庭でもフッ素入り歯磨き粉やジェル、スプレーなどを使用しましょう。

監修歯科医師:重永基樹先生

東京都新宿区西落合の哲学堂デンタルクリニック院長。1999年に愛知大学院大学卒業。2002年に現在のクリニックを開業。「なるべく削らない・抜かない・神経をとらない」方針で治療を行っている。

哲学堂デンタルクリニックのホームページはこちら
http://tetsugakudo.com/

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