(2023年4月28日公開)
【歯科衛生士執筆】
ふと、口元を鏡で見た時に、歯の根元に三角形の隙間ができていて気になったことはありませんか? それは「ブラックトライアングル」かもしれません。
この記事では、歯の根元にできた隙間「ブラックトライアングル」について、できる原因やできたときの対策、さらに予防法について解説していきます。
ブラックトライアングルとは
歯と歯の接触している部分と、歯ぐきの下がった部分との間にできた隙間がブラックトライアングルと言われます。口の中に黒い三角形が見えることからこの名前で呼ばれています。
前歯の形は三角形をしており、ブラックトライアングルができやすいです。奥歯の形は台形なので、ブラックトライアングルになりにくく、できたとしても奥歯なので見えません。前歯にできると、笑った時などに目立って見える傾向があります。
ブラックトライアングルがあると起こる影響
ブラックトライアングルがあると次のようなマイナス面があります。
見た目の印象が悪い
歯ぐきが下がって隙間ができていると、歯が長く見えたり、すきっ歯に見えたりします。
さらにブラックトライアングルがあると隙間が目立ってしまい、不健康な印象を与えたり、人によっては不衛生に感じられたり老けてみられたりしまいがちです。
ブラックトライアングルは人の目に止まりやすく、人前に出る仕事をしている方が気にされることが多いです。見た目の印象がその人の印象にまで影響してしまうことがあるためです。
口内トラブルを引き起こしやすい
歯の根元に隙間があるため汚れや食べカスが溜まりやすくなっています。そのため、ブラッシングや歯間ケアが不十分だと、歯石やプラークが付着してしまい、むし歯や歯周炎を引き起こしてしまうことがあります。
また基本的に歯ぐきが下がっていることが多いため、歯の根元が露出しており、冷たいものなどがしみる知覚過敏を起こしやすくなります。
発音障害
歯は発音にも大きく関わっています。ブラックトライアングルがあると、隙間から空気が抜けてしまうため、その程度によっては声を出すときに空気が抜ける音がしてしまいます。
したがって、会話時の発音が不明瞭となってしまうことがあります。
ブラックトライアングルができる原因6つ
歯ぐきの位置は、歯を支えている骨(歯槽骨)の高さや量によって変わります。ではその歯槽骨が下がり「ブラックトライアングル」ができてしまう原因は何でしょうか。ここでは6つの原因について1つずつ解説していきます。
1.加齢
歯を支えている歯槽骨も細胞が形成しています。細胞は年齢と共に活性が衰えて減少してしまいます。〔1〕
それに伴い歯ぐきも下がってしまい、ブラックトライアングルができます。
2.歯周炎
歯周炎に侵されてしまうと、歯ぐきが下がってしまいます。〔2〕
歯周炎になると、歯周病菌の出す毒素によって歯槽骨が溶かされてしまい、それに伴って周りの歯ぐきも減少してしまうためです。歯周炎を治療をしたとしても失った歯槽骨は元に戻りません。すでに歯周炎の状態になっている場合は、今以上に歯槽骨を失わないためにも早めに治療を行うことが大切です。
3.歯の形態や歯並び
歯は基本的に逆三角形の形をしています。しかし、歯の形態も人によって少しづつ異なっており、丸みを帯びた三角形であったり、シャープな三角形であったりします。その三角形の形がシャープであるほど歯と歯の間の隙間が大きくなりブラックトライアングルが形成されやすくなります。
また、歯の並び方によって隙間が形成されて、ブラックトライアングルができてしまう方もいます。
4.噛み合わせ
歯ぎしりや食いしばりをすると、かなりの力が歯や歯槽骨にかかります。歯槽骨に余計な負担がかかると、歯槽骨が減少します。〔2〕
それに伴いブラックトライアングルができてしまいます。歯周炎の方は特に歯槽骨が弱っているため注意が必要です。
5.歯列矯正
歯列矯正を行うと、移動する歯と一緒に歯槽骨も動きます。動かされた歯槽骨は時間と共に再形成されてある程度回復しますが、元の歯並びの状態によっては歯槽骨の形成があまり進みません。その結果、歯ぐきが下がった状態のままになり、ブラックトライアングルができてしまいます。
歯槽骨の厚さにも個人差があり、その厚さが薄いことが原因になる場合もあります。〔3〕〔4〕〔5〕
6.ブラッシング方法
歯を磨くときに短時間で強い力をかけてゴシゴシ磨いていないでしょうか。
力いっぱい磨いていると、歯ぐきが傷ついて下がり、ブラックトライアングルができてしまいます。歯並びによっては局所に力が加わってしまい、一部だけブラックトライアングルができてしまうこともあります。
歯磨きの力加減や歯ブラシの当て方など、適切なブラッシング方法は歯科医院で教えてもらうことができます。適切な力加減でご自身の歯並びに合ったブラッシングができるよう、ぜひ歯科医院で確認してみましょう。
適切なブラッシング圧についてはこちらの記事でも解説しています。
ブラックトライアングルは自分で治せる?
一度できてしまったブラックトライアングルは残念ながら自然に治ることはありません。ただし、できた隙間を改善する事は可能です。また、場合によっては歯科医院で原因の改善をしてもらう必要があります。
自己判断をせずに歯科医院を受診して、適切な治療やアドバイスを受けることが大切です。
ブラックトライアングルの5つの治療法
ブラックトライアングルが気になる方のために歯科医院でできる処置を紹介していきます。
※審美的な治療のため基本的に保険適用外の自由診療になります。
1.ダイレクトボンディング
できた隙間を、コンポジットレジンとセラミックを混ぜたハイブリットセラミックという材料で埋める方法です。
基本的には歯を削らず、ハイブリットセラミックでブラックトライアングルを埋めていきます。
歯ぐきの境目まで埋めるので、歯ぐきに炎症が起きないようにご自身でのケアが必要になります。
また、場所やケアの方法によっては取れてしまう可能性もあります。
2.ラミネートべニア
歯を薄く削り、付け爪の様なセラミックを歯に接着して、歯の形を変えてブラックトライアングルを埋め隙間を目立たなくする治療になります。
ダイレクトボンディングよりも治療費が高く、歯も削りますが、より自然な歯の形態でブラックトライアングルを無くせるというメリットがあります。
治療費 |
1歯あたり10~15万円 |
期間 |
最低2回の来院が必要 |
3.IPR(ディスキング)
矯正中であれば、IPR(Inter Proximal Reduction)という方法で改善させることができます。〔5〕
IPRとは、歯と歯の間を少し削る処置のことであり、「ディスキング」とも呼ばれます。逆三角形の程度が大きい歯の両側を最大0.25 mmずつ削って傾斜角度を狭くしたうえで、削った隙間を矯正で閉じることにより、歯の根元の隙間を狭くする方法です。
矯正力を加えないと歯は動かないため、削って作った隙間も埋まりません。したがって、矯正中に行ったり部分矯正を行ったりして矯正力を加える必要があります。
個人の歯の形態によって削れる量が変わりますので、担当の歯科医師と相談する必要があります。
治療費 |
矯正代に含まれることが多い |
期間 |
矯正治療期間に準ずる |
4.歯肉移植
歯ぐきが下がってできたブラックトライアングルの場合におこなわれる施術です。上顎などの粘膜を切除して下がった歯ぐきに移植する手術を行い、下がった歯ぐきを回復させる治療になります。
治療費 |
15~25万円 |
期間 |
日帰り手術要経過観察 |
5.ヒアルロン酸注入
下がった歯ぐきにヒアルロン酸を数回に分けて注入し、歯ぐきをふっくらさせ、ブラックトライアングルを狭くする方法です。ヒアルロン酸は吸収されるので、6ヶ月〜12ヶ月ぐらいで消失します。気になるようであれば、ヒアルロン酸を再注入しなければいけません。
治療費 |
1回1~2万円 |
期間 |
3週間おきに8回~15回 |
ブラックトライアングルができないための3つの予防法
歯科医院で処置をしても、またブラックトライアングルができてしまっては元も子もありませんよね。
隙間がこれ以上広がらないようにするため、また、新たなブラックトライアングルができないようにするためにも、普段から意識しておける3つの予防法についてお伝えしていきます。
1.歯ぐきを健康に保つ
ブラックトライアングルの原因の一つである歯周炎は、発症をしてしまったら歯科医院での治療が必要です。一方で発症する前であれば、毎日のケアで予防をすることができます。毎日適切なセルフケアを行なうと共に、歯科医院で定期的にクリーニングやブラッシング指導を受けて、歯ぐきを健康に保ち、歯周炎を予防しましょう。
2.ブラッシング方法やグッズを見直す
歯ぐきが下がることを防ぐ一つのポイントは、ブラッシングの力加減に気を付けることです。また、歯と歯の間をフロスや歯間ブラシなどの補助清掃用具でケアすることも大切です。このとき、自分の口に合ったグッズを選択することも大事になってきます。
歯科医院でブラッシング指導を受けるときは、磨き方だけでなくグッズの選び方についても確認を行いましょう。
また、歯ぐきの活性化成分が配合されている歯磨き粉を併用してみるのもいいかもしれません。
3.矯正治療前のインフォームドコンセント
矯正治療を考えている方は、歯科医師に歯を動かす事によってブラックトライアングルができやすいかどうかの予測を立ててもらうことができます。
矯正治療の相談をされた際にブラックトライアングルについても相談してみましょう。
ブラックトライアングルは病気ではない
原因が歯周炎の場合を除いて、ブラックトライアングル自体は深刻な病気というわけではありません。
ただし、原因を放置するとブラックトライアングルも悪化します。
むし歯や口臭などの口内トラブルの原因にもなりかねませんので、定期的に歯科検診を受けて、隙間が広がったり汚れが溜まりやすくなったりしていないか見てもらい、見た目が気になる場合は歯科医院で改善してもらいましょう。
〔1〕
下野正基, 加齢と歯周組織, 老年歯科医学, 1990年, 4巻1号, pp.108-112
〔2〕
臼井 通彦ら, 歯周病における骨破壊メカニズム~破骨細胞を形成・活性化する因子~, 日本歯周病学会会誌, 2015 年, 57 巻 3 号, pp.120-125
〔3〕
三宅 正純, 香宗我部 亜人, 矯正治療における歯周病学的配慮について, 日本顎咬合学会誌 咬み合わせの科学, 2009年, 29巻4号, pp.290-297
〔4〕
池田忠貴ら, 矯正治療後に下顎前歯部に発生するopen gingival embrasure space(OGES)の評価 -第1報:OGESの発生率について-, 第1回 日本大学口腔科学会学術大会 抄録, 2002年, pp.1-17
〔5〕
香西 陽子ら, 成人矯正治療患者の中切歯における鼓形空隙拡大の発生要因について, 日本矯正歯科学会, 2009年, 68巻1号, pp.9-15