歯周病の歯肉炎と歯周炎とは? 症状の違いと治し方【歯科医師監修】

歯周病の歯肉炎と歯周炎とは? 症状の違いと治し方【歯科医師監修】

(2023年4月17日公開)
【歯科医師監修】
鏡で自分の口内を見ているときや歯磨きをしているときに、「歯ぐきの状態がいつもと違う」と感じたことはありませんか?それはひょっとしたら歯肉炎かもしれません。歯肉炎は歯周病の初期段階です。初期段階では自覚症状がない場合も多く、放置をすると歯肉炎から歯周炎に進行します。さらに進行して歯槽膿漏になると、最悪の場合は歯が抜け落ちてしまうこともあるため、注意が必要です。この記事では歯肉炎の症状や原因、全身への影響、治療方法などについて解説しています。

               

歯肉炎とは歯周病の初期段階のこと

歯肉炎とは、歯と歯ぐきの隙間から侵入した細菌が原因で、歯ぐきが炎症を起こした状態のことです。歯ぐきが腫れていたり歯磨きの刺激で歯ぐきから出血したりする場合は、歯肉炎が疑われます。
歯肉炎を放置して炎症がさらに進行した状態を歯周炎といいます。歯肉炎と歯周炎はあわせて歯周病と総称されます。歯周病は、主に不十分な歯磨きによって蓄積したプラークが原因となり引き起こされます。プラークは、歯に付着した細菌が繁殖してできる、ネバネバしたかたまりです。このプラークが歯と歯ぐきの境目にたまることでさらに細菌が増殖して、毒素を産生します。
この毒素が歯ぐきに炎症を起こしたり歯を支える骨を溶かしたりすることで歯周病が進行していきます。歯肉炎から重度の歯周炎まで進行すると歯が抜けてしまう原因にもなるため、注意が必要です。
厚生労働省の調査によると、日本人の約4割、特に45歳以上の過半数において歯肉出血が認められることが明らかになっています。歯周病、特に軽度の症状である歯肉炎は、いまや日本人にとって身近な疾患のひとつです。

歯周病の歯肉炎と歯周炎とは? 症状の違いからセルフチェック

歯周病は、炎症の進み具合によって初期症状の歯肉炎と炎症が進行した歯周炎の2段階に分類されます。

歯周病の初期段階:歯肉炎

歯肉炎の段階では、次のような症状が現れます。    
  • 歯間の歯ぐきが丸く膨らんでいる
  • 歯磨きの時や硬いものを噛んだ時に出血する
  • 口内がネバネバする
歯肉炎は炎症も軽度であるため自覚症状に乏しいことが多く、出血がないと自分で炎症に気付くことは難しいです。そのため、気付かないうちに病状が進行してしまうことが多いです。口内環境を良好に保つためには、「何かがおかしい」と感じる前に、定期的な健診を受けることが重要です。

歯周病が進行した段階:歯周炎

炎症が進行して歯周炎の段階になると、次のような症状が出てきます。          
  • 歯ぐきが赤紫色になる
  • 歯がグラグラになる
  • 歯ぐきが後退して歯に物が挟まりやすくなる
  • 歯ぐきの圧痛
  • 歯ぐきの腫れ
公益財団法人8020推進財団が2018年に実施した調査によると、日本人が歯を失う原因の第1位はむし歯(う蝕)ではなく、歯周病であることが明らかになっています。歯周病 の症状に心当たりがあれば、できるだけ早期に歯科医院を受診し、歯ぐきの状態をチェックしましょう。

歯肉炎(歯周病)の原因と進行

歯肉炎の原因は、歯や歯ぐきにたまったプラーク(歯垢)です。人間の口内には400種類以上の細菌が常在していますが、口腔内環境が清潔でないと細菌の数が1兆個程度に増えます。加えて歯磨きが十分にできていないと、プラークが歯と歯ぐきの間にたまっていきます。このプラーク内の細菌が産生する毒素によって歯ぐきの腫れや出血が引き起こされて、歯肉炎の状態となります。さらに歯肉炎が進行して歯周炎の段階に至ります。
また、放置されたプラークは、やがて唾液内のカルシウムやリン酸などと結合して、歯石というかたまりになります。歯石の表面は歯垢が付きやすく、細菌の温床になってしまいます。そして、表面で大量繁殖した細菌が病状を悪化させていき、歯ぐきの奥深くに進行することで、歯のぐらつきや抜け落ちを引き起こします。これは、細菌から発生する毒素が、歯ぐきの下にあって歯を支える土台の役割をしている歯槽骨を溶かすことが原因です。このように歯周病が進行していくと歯ぐきからの出血や膿が多くなり、いわゆる「歯槽膿漏」の状態となります。
<プラーク以外が歯肉炎を引き起こす場合もある>
歯肉炎の中にはプラークが原因ではないものもあるので注意が必要です。例えば、ヘルペスウイルス感染による急性ヘルペス性歯肉口内炎や、カンジタ症に代表される真菌感染も歯肉炎の原因となります。いずれの場合も歯科医師の指導・治療により治るため、気になる症状があれば歯科医院を受診しましょう。

歯肉炎(歯周病)を進行させる因子

歯周病を進行させる原因は、不十分な歯磨きによる口内環境の悪化だけではありません。まず、歯周病悪化の代表的な因子として有名なのが糖尿病です。糖尿病の影響による免疫低下が歯周病の炎症を進みやすくします。最近の研究により、糖尿病と歯周病は相互に関連することがわかってきており、歯周病の治療により炎症が改善すると糖尿病の症状にも改善がみられることがあります。
また、喫煙習慣による血行不良や過度のストレスも免疫低下の引き金となるため、歯周病の危険因子と考えられています。他にも、日常的に口呼吸が習慣になっている人も注意が必要です。口内が乾燥することでプラークが増えやすくなるほか、唾液量が減り、口内の自浄作用が低下することも進行を早める要因とされています。これらの因子に心当たりがある場合は、日頃から口内環境に気を配るようにしましょう。

歯周病がもたらす影響

歯周病は、口内だけでなく全身の健康状態に影響を及ぼすことが近年の研究で分かってきています。例えば狭心症や心筋梗塞は、歯周病の進行に伴いその発症リスクが高くなるとも言われています。これは、歯周病の原因菌やその菌の産生した毒素が血管に侵入してしまうことが原因です。血管に細菌や毒素が侵入すると、血管の壁に粘性のタンパク質が発生します。この粘性のタンパク質により血管が狭くなり血流が阻害されると心臓へ送られる酸素や栄養が不足し、狭心症が引き起こされるのではないかと考えられています。
また、血管の壁から剥がれ落ちたタンパク質が血管を詰まらせ、心筋梗塞の原因になるとも考えられています。心臓の病気以外にも、アルツハイマー病や脳梗塞、低体重出産などとの関連性も明らかにされつつあります。

歯肉炎の治し方

歯肉炎は、適切に治療・ケアをすれば早くて2~3週間で元の健康な状態に戻すことも可能です。軽度の腫れやプラークの付着は、丁寧なブラッシングやマッサージで完治することもあります。しかし一度歯石ができてしまうと自身では取り除けないため、歯科医師や歯科衛生士に除去してもらわなければなりません。
歯科医院では、スケーリングという治療を行います。これは、歯の表面や歯ぐきの中に張り付いたプラークや歯石を、専用の器械を使って除去する方法です。
また、歯科医院では正しいセルフケア方法についての指導も行われます。これにより、 日頃の生活のなかでプラークの発生を抑えられるようにします。ただし、セルフケアだけではどうしても十分に口内を清掃することができません。治療が終わった後も定期的に健診を受けることが、歯肉炎の再発予防や早期発見につながります。健診の周期は汚れの付きやすさや生活習慣などによって異なるため、かかりつけの歯科医師や歯科衛生士に相談しましょう。

歯肉炎に効く薬は?

仕事や家庭の事情などですぐに歯科医院へ行けない場合は、市販の薬を利用することで症状の緩和が期待できます。薬局でも購入できる薬の例としては、ライオンの「デントヘルスR 塗る歯槽膿漏薬」があります。ゲル状になっており、殺菌、抗炎症などに有効な成分が歯ぐきにとどまるため、出血や腫れ、痛みの軽減に役立ちます。
また、ロート製薬から発売されている「ハレス 口内薬 15g」も同じくゲル状の塗り薬です。組織修復成分と止血成分によって歯ぐきの自然な修復力をサポートします。
これらの薬は歯周病の治療まではできません。あくまで歯科医院での治療を行うまでの補助的な役割になります。なお、持病や体質によっては使用できないため、注意が必要です。使用する際は必ず禁忌や注意事項を確認のうえ、薬剤師や医薬品登録販売者に相談しましょう。

自宅でできる歯肉炎の予防法

歯肉炎の予防には、歯科医院での健診や治療と同様に、自宅での正しいケアが重要です。自宅で行うケアとして、まず毎日の歯磨きが挙げられます。歯磨き時は「きちんとプラークを落とすこと」と「歯ぐきをマッサージすること」に注力しましょう。

理想的な歯磨きのタイミング

歯磨きに理想的なタイミングは毎食後です。毎食後の歯磨きが難しい場合でも、就寝前と起床後の1日2回は磨くようにしましょう。ポイントは時間をかけて丁寧に磨くことです。まず自分の歯や歯ぐきをよく観察して、腫れや出血、口臭がないかをチェックします。気になる部分はしっかりと毛先を当てて磨きましょう。出血している箇所も磨くことが大切です。

歯肉炎予防に効果的な歯磨き「バス法」

歯肉炎の予防に効果的な磨き方に「バス法」と呼ばれる方法があります。これは、歯ブラシの毛先を歯と歯ぐきの境目に斜め45度の角度で当て、歯ぐきに少し入れ込むようにしながら、マッサージするように小刻みに動かすものです。歯ブラシのヘッドを縦にして、上下に微振動させながら歯を1本ずつ磨く方法もあわせて行うと、より効果的です。歯磨き後には殺菌効果のあるうがい薬ですすぐのも良いでしょう。

歯肉炎のリスクなど、口内環境がわかる簡単検査シルハ

毎日歯磨きをしていても、実際の口内環境までは把握しきれないものです。「自分の口の中は今どうなっているんだろう?」と思ったら、たった10秒口をすすぐだけでできる唾液検査「シルハ」がおすすめです。
シルハでは、「虫歯菌」「酸性度」「緩衝能」「白血球」「タンパク質」「アンモニア」の6項目を検査します。これらの項目をそれぞれ0~100のスコアで数値化することで、口内環境を数値化・可視化できます。口内の状態や重点的にケアするべき点が把握できるため、毎日のケアの参考になるだけでなく、口内に自信を持って日々を過ごせるきっかけにもなります。
検査は歯科医院を中心に、全国の実施医療機関で行えます。1回の検査費用は1,000円から3,000円程度で、気軽に試せるのもうれしいポイントです。「シルハ」を利用することで口内環境を把握できます。歯科医院での定期的な健診とあわせて行い、健康的な口内を保つことに役立てましょう。

まとめ 早期の治療が歯肉炎改善のポイント

歯ぐきが炎症を起こす歯肉炎は、放置すると歯周炎に進行する恐れがあります。早期に治療・ケアすることで元の状態に戻すことも可能です。気になる場合は歯科医院を受診しましょう。

監修歯科医師:吉竹 啓介 先生

東京都中央区京橋駅直結の「京橋 銀座みらい歯科」院長。
2010年神奈川歯科大学 卒業。2014年に医療法人社団港成会 理事に就任し、同年にせたがや歯科室を開設。2020年に京橋 銀座みらい歯科を開設し、翌年移転・名称変更。現在は京橋 銀座みらい歯科として東京スクエアガーデン2Fで診療を行っている。

京橋 銀座みらい歯科のホームページはこちら
https://www.miraishika-ginzain.tokyo/

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