ノロウイルス感染症とは?症状や罹らないための予防法を解説【医師監修】

ノロウイルス感染症とは?症状や罹らないための予防法を解説【医師監修】

感染性胃腸炎の原因の一つである、ノロウイルスの感染原因や症状、対処法や予防法を解説します。

               
【医師監修】
冬場に流行する感染性胃腸炎は、主にノロウイルスとロタウイルスが原因です。中でもノロウイルスは感染力が強く、集団感染などを引き起こすこともあります。
主にウイルスに汚染されたものによる経口感染が感染経路ですが、感染者との接触や飛沫、空気を介して感染する例もあります。そのため、対策や処置には正しい知識とスピードが求められます。
本記事では、ノロウイルス感染症の概要と感染原因・症状・対処法・予防法を解説します。また、症状に嘔吐もあるため、口内のリスクとケアについても触れていくので、ぜひご覧ください。
【SillHa.com編集部より】
ノロウイルスの原因となる感染性胃腸炎の最新の流行情報は国立感染症研究所から発表される下記の感染症の情報をご覧ください。
・参考:厚生労働省/国立感染症研究所 速報グラフ:週別ノロ・サボウイルスの内訳

ノロウイルス感染症とは?

11月から2月にかけての冬場に食中毒を引き起こすのが、ノロウイルス感染症の特徴です。ノロウイルスの感染力は強力で、接触感染や飛沫感染のほか、ノロウイルスに汚染された微粒子が漂うことによる空気感染も報告されています。子どもや高齢者が感染した場合、症状が重症化するおそれもあるため、感染しないための対策を十分に講じる必要があります。
もし感染が疑われるような症状が見られた場合は、速やかにかかりつけ医に相談をするようにしましょう。

主な感染経路

ノロウイルスの主たる感染経路は経口感染で、汚染された食品を口にすることで感染します。ノロウイルスを含んでいることのある代表的な食品は、牡蠣やアサリ、シジミなどの二枚貝です。これらを十分加熱せずに食べた場合に感染する場合があります。ただし、加熱が不十分な二枚貝による感染よりも、料理をする人の手などを媒介して食品に付着したウイルスに感染してしまうことの方が多いという報告もあります。この場合、食品の種類によらず感染をしてしまうリスクがあります。
他にも、感染者の糞便やおう吐物に触れた手指や物品からの接触感染、感染者の吐物による飛沫感染、感染者の吐物が乾燥してホコリなどに付着し感染する空気感染があります。

症状

主な症状は腹痛やおう吐、下痢です。高熱になることは少なく、平熱~微熱に留まることが多いです。腹痛はチクチクと刺されたような痛みにはじまり、込み上げるような痛みに変わります。
ウイルスは小腸で増殖し、胃の運動低下や麻痺を発生させ、おう吐を引き起こします。急激な吐き気に見舞われ、1日に複数回のおう吐が発生し、顔は青白くなります。
おう吐がおさまってもその後に下痢が発生するケースが多くあります。色は白や白っぽい黄色や緑で、水分の多い下痢が続きます。

潜伏期間・有症期間

発症までの潜伏期間は1日〜3日です。ただし、感染をしていても発症をしない場合があります。
また、発症をしてから症状が出ている期間は平均して24時間〜48時間です。発症してからの症状は前述の通りですが、症状が軽い場合もあり、胃腸炎と診断されないこともあります。

完治までの期間

有症期間は24時間〜48時間であり、以降は自然治癒に向かうため、完治までの期間は1週間程度です。ただし、症状が落ち着いてからも体内にウイルスが2週間〜1か月残り、そのあいだにも便からウイルスが排出されるため、二次感染に注意が必要です。感染者も周囲の方も手洗いの徹底をおこないます。
通学・通勤について、法律ではノロウイルスによる出席停止や出勤停止を定めているわけではありません。学校や職場と相談しながら対応を検討します。

ノロウイルスに罹ったと思ったら

もし冬場におう吐や下痢の症状がある場合は、ノロウイルス感染症を疑い、すみやかに医療機関を受診しましょう。もしかかりつけ医がいる場合は、事前に連絡をして、相談をするのも良いでしょう。
尿が半日出ない、唇がカサカサに乾いているなど、脱水の症状が見られる場合は救急外来を受診します。高齢者の場合は、おう吐物で喉を詰まらせるおそれがあるため注意してください。
重症化するおそれのある3歳未満や65歳以上の方は、糞便中のウイルスの有無を診断するノロウイルス抗原検査を行なう場合があります。これらの年齢以外の方でも検査を受けることができますが、保険適用外になります。

ノロウイルスに罹った場合の対処法

ノロウイルス感染症は、ウイルスに対する特効薬のようなものはありません。脱水に注意しつつ安静にして、対症療法をおこないます。
脱水が起きた場合は点滴などをする場合もありますが、下痢止めの使用は控えます。下痢はノロウイルスを体外に排出するために必要な生理現象です。薬で下痢を止めようとするのは、ウイルスの排出を止めようとするのと同じで、ウイルスが小腸にとどまり回復が遅くなります。初期段階では使用せず、下痢が長く続く場合には医師の判断のもとで処方される場合があります。

ノロウイルスの予防法

ノロウイルスに感染しないようにするには、日頃の手洗いや消毒の徹底が大切です。ここでは、感染を予防する具体的な方法について解説します。

手洗いを徹底する

食事の前、調理の前、トイレの後、下痢やおう吐の処理後は手洗いを徹底します。石鹸でのもみ洗いを30秒かけておこない、流水で15秒ほどしっかり洗い流します。これをもう1回以上繰り返しましょう。1回を長く洗うよりも、複数回洗う方がウイルスは落ちやすい傾向があります。
手を洗うときは爪先から指の間、手首だけでなく腕まで洗う方が安心です。爪先はブラシを使って擦ると細かい隙間までキレイにすることができます。また、腕時計や指輪をしている場合は外してから洗いましょう。
洗った後は共用のタオルではなく、清潔なタオルやペーパータオルで拭き取るようにすると、ウイルスの再付着を予防することにつながります。
なお、エタノールなどの消毒液だけでは、石鹸での手洗いほどの効果は得られません。手を洗えない状況での応急対策や手洗い後の補助として活用してください。

食品は加熱をしてウイルスを不活化する

ウイルスは一般的に熱に弱いため、食品を加熱することでウイルスの感染性を失わせることができます。具体的な加熱の目安は、中心部が85℃〜90℃になる温度で90秒間です。電子レンジであれば、500Wを200秒で100℃に到達します。また、「煮る」・「蒸す」は水を媒介するため100℃が最高温度ですが、「焼く」・「揚げる」は150℃〜250℃に達します。より確実にウイルスを死滅させようとするなら、焼いたり揚げたりする調理法が推奨されます。

調理器具の消毒を行う

次亜塩素酸ナトリウムをもちいた化学的消毒と加熱消毒を合わせておこなうことでウイルスをしっかり消毒します。
調理器具を洗剤などで洗浄し、キッチンハイターなどの次亜塩素酸ナトリウムを含む台所用の塩素系漂白剤に浸します。その後、1分以上熱湯にさらしましょう。
なお、二枚貝などの調理の際は、専用の調理器具を使用するか、調理のたびに器具を洗浄することで予防効果が高まります。

二次汚染を防止する

家族でノロウイルスに罹った人がいる場合、おう吐物の処理を慎重におこないます。
使い捨ての手袋やペーパータオルを使用して直接おう吐物に触れないよう注意し、拭き取ったら袋に入れて漏れのないように密閉します。おう吐物のあった箇所は薄めた塩素系漂白剤に浸したペーパータオルを使って拭き取ります。同様に、衣類や寝具も薄めた塩素系漂白剤を用いて消毒します。
また、これらの作業を行なう際は、乾燥したおう吐物などの飛散による空気感染にも注意が必要です。マスクを着用した上で換気をしながら作業を行うようにしましょう。

ノロウイルスのときの食事・水分の摂り方

ノロウイルスに感染した際にオススメの栄養素・食材・食品・料理とその摂り方についてご紹介します。

おすすめの食材・食品

赤パプリカや黄色のキウイフルーツには、炎症をおさえるビタミンCが多く含まれています。免疫力を高めるビタミンDを摂取するには魚類やきのこ類、粘膜を強化するビタミンAを取るにはレバーやほうれん草を取り入れます。
腸内環境改善のための水溶性食物繊維は海藻類に多く含まれています。感染の症状が出ているときは胃腸が弱っているため、食材を小さめにカットし、加熱調理してやわらかくすると胃に優しい食事になります。無理をして固形のものを食べないほうがよい場合、ゼリー等の流動性の良いものもおすすめです。
ただし、甘いものは下痢を悪化させるおそれがあり、下痢を解消する上ではむしろ避けた方がいい場合もあります。
食事の内容についても医師と相談しながら検討しましょう。
避けるべき食材としては、辛味の強い唐辛子、甘味の強い甘煮、塩分の強い漬物などがあります。

水分はこまめに摂取

ノロウイルス感染症では、症状におう吐や下痢などの消化器症状があるため、脱水傾向になります。そのため水分補給が必要ですが、一気に水を飲むと胃が刺激されて吐き出そうとするため注意してください。常温の水をこまめに少しずつ、15分おきにひとくちなど、時間をかけて摂取します。
水分補給は水や麦茶でおこない、コーヒーや紅茶などの利尿作用のある飲み物の摂取は避けましょう。症状が激しい場合は水分だけでなく塩分も失われます。ミネラル分や糖質を含むスポーツドリンクで水分補給します。

ノロウイルスに感染した時に注意するべきこと

おう吐をしているときは、おう吐物が気管に入り込んでしまう「誤嚥(ごえん)」に注意する必要があります。ここでは、誤嚥を避ける上でのポイントについて解説します。

窒息や誤嚥性肺炎の併発に注意する

乳幼児や高齢者は下痢・おう吐のほかに、誤嚥をきっかけに「窒息」や「誤嚥性肺炎」を併発するおそれがあるため、注意が必要です。刺激物質が気管に侵入すると、通常は体の防御機能が働き、咳などで排出をしようとします。ところが、乳幼児や高齢者では、感染症状による体力低下も重なり、誤って気管に入ってしまっても咳が上手く出せないことがあります。その結果、激しく咳き込んで呼吸困難になったり、おう吐物が詰まって窒息を引き起こしたりすることがあります。また、おう吐物には口内細菌も混ざっています。この細菌が肺の中で繁殖をすると誤嚥性肺炎となってしまうのです。
防御機能が正常に働くようにするためには、体力を回復して咳を出せるようにすることと共に十分な水分補給を意識することが大切です。
また、横になりながらの食事は誤嚥のリスクがあります。食事のときは上半身を起こして食べるようにします。

口内ケアを行うことで予防に繋がる

誤嚥性肺炎を防ぐためには、日頃から歯磨きやうがいで口内の細菌を減少させて、清潔にしておくことも大切です。
歯磨きをする際は、磨く順番やリズムを身につけると丁寧なケアにつながります。
上の歯は右から左、下の歯は左から右に磨き進め、歯ぐきの間は小刻みにブラシを動かすと、歯垢が除去されやすくなります。

ノロウイルスに感染した場合の口内のリスク

おう吐は胃酸を吐き出すことになるため、口内を酸性化して歯を溶かすことがあります。歯はpH 5.5以下の酸性に傾くと溶け出します。胃酸のpHは1〜2であるため、嘔吐には歯を溶かすリスクが伴うのです。
歯が溶けることで生じる影響として、噛み合わせが悪くなる、むし歯や歯周病になりやすくなる、痛みが生じる、などがあります。おう吐をしなくても吐き気があるからとケアを怠る方もいますが、食事に糖質が多いとむし歯のリスクが上がります。

口内環境を悪化させないための対処法

おう吐をなくすことが、はじめに取り掛かるべき対策になります。身体の右側を下にして横を向き、膝を曲げて大きく呼吸するなどしてリラックスしましょう。胃を安静に保つことが大切です。おう吐をしてしまったら口内への影響を最小限におさえます。すすぎうがいをして、口内が強い酸性に傾くのを抑えます。
おう吐物のなかには食べかすも多く含まれています。口の中をすすいだ後、できるなら歯磨きもして汚れを落としましょう。おう吐の直後に歯みがきをおこなうと、強い酸により歯が弱った状態で歯磨きをすることになり、歯を傷めてしまうおそれがあります。水で口内を中和して、おう吐から30分ほど時間をおいて歯磨きをします。

ノロウイルスに感染した場合の適切な汚物の処理法

おう吐物や下痢などにより汚れたものは乾燥する前に速やかに回収し、消毒の徹底を意識します。できれば汚物を処理する人は一人に絞り、処理をするときは手袋やマスク、エプロンを着用します。汚物の処理の際に着用するものは使い捨てのものを使用しましょう。汚物の付着箇所は塩素系漂白剤を使用して拭き取ります。
ウイルスが飛散したおそれがあるため、広範囲を掃除します。掃除をするときは部屋の換気をおこない、ウイルスを含んだホコリを外に排出します。
処理後には手洗いとうがいを徹底し、衣類を着替え、洗濯にも塩素系漂白剤を使用します。

監修医師より

おう吐物の処理や二次感染防止の作業は手間にはなりますが、使い捨ての手袋やマスク、エプロンなどの着用や、汚染された場所・衣類などの消毒は、いずれも感染を広げないようにするための大切な処置です。病気が治るまでの一時的なものなので、しっかりと行ないましょう。

まとめ

ノロウイルスは、感染力が高く拡散しやすいウイルスです。子どもや高齢者が感染すると重篤な症状に移行しやすいため、十分な対策が求められます。感染者のおう吐物を処理する際は、十分な予防対策をおこない、二次感染を起こさないよう適切な手順で進めましょう。

監修医師:水野 泰孝 先生

グローバルヘルスケアクリニック 院長。
昭和大学医学部を卒業後、東京慈恵会医科大学大学院にて熱帯医学を専攻。タイやバングラデシュなど世界各国の大学病院・ナショナルセンターにおいて医療研究や診療に従事。
日本国内においても東京慈恵医科大学付属病院や東京医科大学病院にて感染症領域をはじめとした診療に務めるほか、国際協力機構や厚生労働省羽田空港検疫所に勤務した経歴も持つ。
日本小児科医会国際委員長、日本感染症学会評議員、日本熱帯医学会評議員など多くの学会にて要職に就き、日本専門医機構認定小児科専門医、日本小児科学会認定小児科指導医、日本感染症学会認定感染症専門医・指導医など、多くの認定資格を持つ。

グローバルヘルスケアクリニック ホームページ
https://www.ghc.tokyo/

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