(2024年2月16日更新)
むし歯になって困る歯として意外と多いのが、前歯です。前歯は他人の目によく触れるところなので、早めに治療したいと考えている方も多いです。本記事では、前歯がむし歯になる理由、前歯のむし歯の進行速度、進行具合による治療、予防のためにできることなどを詳しくまとめました。
前歯がむし歯(虫歯)になる理由
前歯がむし歯になる理由としてまず挙げられるのが、磨き残しです。毎食後きちんと歯磨きをしていたとしても、歯には凹凸や隙間があるため、歯の形や歯並びに合わせて歯磨きをしないと汚れをキレイに落としきることはできません。前歯の表側は見やすいので比較的磨きやすいですが、前歯の裏側はへこんでおり、意外と磨き残しがあります。
また、もともと唾液の量が少ない方の場合、むし歯菌が繁殖しやすいとされています。唾液は消化を助けるだけでなく、エナメル質の修復を行う再石灰化、抗菌作用、歯垢(プラーク)に含まれる細菌の洗浄作用、エナメル質を溶かす酸の中和作用といった働きがあります。そのため、唾液の分泌量を増やすことで、むし歯の進行を止めることが期待できます。
しかし、前歯は唾液が届きにくい部分なので、自然とむし歯になりやすい環境になってしまいます。唾液は下顎のほうに溜まるため、上の前歯は特に注意しなければなりません。前歯のむし歯菌の繁殖を防ぐためには、口内の乾燥を防ぐことが大切です。口呼吸をやめて鼻呼吸をするように普段から意識して、口の中が乾く環境をつくらないことが大切です。寝るときに口が開いてしまう方など、意識しても改善が難しい場合は、マスクやマウステープをすることで、口の中が乾かないように対策しましょう。
食習慣も大切です。ミュータンス菌などのむし歯菌の餌である糖質を摂りすぎている、よく間食をしているといった習慣もむし歯につながりやすいので注意しましょう。
前歯のむし歯(虫歯)の進行速度
前歯のむし歯の初期は、不透明で濁った白色に見えるようになります。これは固いエナメル質が溶け始めた状態ですが、痛みはほぼないため、自覚できないことが多いです。症状として、黒ずみが生じたり、冷たいものがしみたりすることがあります。
中期になると、エナメル質の下にある象牙質にまでむし歯が進行します。そこまでむし歯が広がると、急激に悪化して冷たいものや甘いものがしみて、痛みが出ることがあります。個人差はありますが、むし歯の初期から中期に移行するまでは概ね半年から1年ほどです。
むし歯の中期から、歯の内部にある歯髄(神経)までむし歯が進行するのは、一般的に半年もかからないとされています。何もしていなくても強い痛みがあり、歯の内部の神経や血管の通っている部分が炎症を起こす歯髄炎にもなりかねません。それ以上に進行すると、歯の大部分が溶けてしまいます。神経が壊死すると痛みは感じなくなりますが、歯根部分の管を通して顎の骨に炎症が生じる恐れもあります。
こうした状況に陥らないようにするには、早期の発見と適切な治療が極めて大事です。
前歯のむし歯(虫歯)を確認する方法
まずは見た目を確認しましょう。前歯の表面が白っぽかったり、黒く変色していたり、穴が開いていたりする場合は、むし歯になっている疑いがあります。前歯の裏側も鏡などを利用して確認しましょう。
次に感覚です。冷たいものや甘いもの、熱いものを口にするとしみたり、前歯にふれたり強く噛んだりしたら痛みを感じる場合も、むし歯である可能性があります。何もしなくてもズキズキと前歯が痛むような場合は、すでにむし歯が進行しているおそれがあります。いずれの状態でも、早めに歯科医院を受診しましょう。
前歯のむし歯(虫歯)の治療法
むし歯がどれくらい進行しているかによって、適切な治療は異なります。また、前歯の場合は他人からも見えやすいため、できるだけ目立たないように治療したいと考える方も多いです。
むし歯が軽度の場合・重度の場合に行われる一般的な治療は、次のとおりです。
むし歯(虫歯)が軽度の場合
軽度のむし歯では、器具で触れたり目視をする以外にも、エックス線、う蝕(むし歯)検知液などを使用して検査を行い、むし歯の範囲などを調べます。マイクロスコープ(歯科用顕微鏡)による検査では、肉眼では見つけられなかったむし歯を発見できることもあります。
こうした検査によって軽度のむし歯を見つけることができれば、歯を削りすぎない低侵襲治療をおこなうことができます。むし歯がごく初期段階であれば歯を削らず、歯垢や歯石を除去した上で定期的にフッ素を塗り、様子を見ることもあります。
むし歯の状態が次の段階に進むと、患部のみを最小限削った後、そこに金属やレジンなどの詰め物をする方法も取られます。金属の詰め物とは銀歯や金歯を指します。金属の詰め物は見た目に大きく影響するので、見た目を気にされる方にはあまりおすすめできません。また、歯に似た色合いを持つ、レジンという合成樹脂もあります。レジンは経年劣化により、3~5年程度で変形や変色が起きることがあります。変色や変形が気になってきたら歯科医院で相談してみましょう。
むし歯(虫歯)が重度の場合
むし歯がさらに進行し、範囲が広くなってしまった場合には、むし歯の部分を削った後、型取りをした上で被せ物をする治療を行います。
被せ物に使う材質には、先にご紹介した金属やレジンのほか、メタルボンドやセラミック、ジルコニア、ジルコニアセラミックなどがあります。これらは保険適用外の素材です。メタルボンドとは、土台が金属、表面はセラミックで制作した被せ物のことです。審美的にも優れ、オールセラミックに比べると安価ですが、内側に金属を使用するため、使われる金属の種類によってはアレルギーを引き起こしたり、金属が溶け出すことで歯ぐきが変色したりすることがあるのがデメリットです。角度や部位によっては、金属が見えることもあります。人から見えやすい前歯には、セラミックのような目立ちにくい素材を選ぶといいかもしれません。
近年、強度に優れているジルコニアを使う治療が主流になりつつあります。ジルコニアとは、人工ダイヤと言われるほど硬い物質です。色の再現性ではセラミックには劣りますが、技術の進歩で数多くの色を取り揃え、周りの歯色とのマッチングの確率を上げることができてきています。メタルボンドの金属の代わりにジルコニアを使い表面にセラミックを接着させるジルコニアセラミックは、強度と審美の両方を兼ね備えた優れた被せ物と言えます。
神経までむし歯菌が到達している場合は、むし歯に冒された神経を取り除き、むし歯菌を殺菌した後、薬で神経があったところを洗浄する根管治療を行うことで、自分の歯を残せる可能性もあります。
抜くほうがよいと判断された場合は、抜歯することもあります。抜歯をした後は、入れ歯やブリッジ、インプラントなどの人工の歯を用いることで、歯の機能の回復を行います。重度のむし歯では、隣の歯や歯肉にもむし歯菌が感染している場合もあるため、継続的な通院は欠かせません。
根管治療については、こちらの記事で手順などを解説しているので参考にしてみてください。
前歯のむし歯(虫歯)治療にかかる費用
前歯のむし歯を治療する際にかかる費用は次のとおりです。歯科医院やむし歯の状態によって値段は異なるので、あらかじめ相場を確認しておきましょう。
詰め物:2,000〜10,000円程度
詰め物の場合、保険診療で2,000〜10,000円程度です。クリニックにもよりますが、一般的にレジンの場合、3割負担でむし歯1本あたり1,500円程度です。
前歯については、白い被せ物(硬質レジン前装冠)が保険診療の範囲で使用できます。
根管治療(神経摘出):10,000〜20,000円程度
むし歯が進行している場合、根管治療を行わねばならないため、10,000〜20,000円程度と高額になります。
自由診療(保険適用外)
自費診療では、セラミック(陶器)などの素材も選べます。セラミックは経年劣化による変色・変形がほぼなく、天然の歯に似た色合いや透明感、ツヤがあるなど、審美的にも優れた素材です。5~10年、長ければ15年、20年と使用し続けることも可能です。また、プラークが付着しづらいなどのメリットもあります。
金属を一切使用していないセラミックやジルコニアの場合は、金属アレルギーの方も安心して使用できます。さらには、ハイブリッドセラミックという、セラミックとレジンを混ぜた素材も選べます。セラミックよりも安価ですが、耐久性が劣るという面があります。価格や見た目、耐久性など、自分自身が何を最も優先したいかをよく考えて素材を選びましょう。
前歯のむし歯(虫歯)の予防法
むし歯にならないように、前歯も丁寧にケアすることが大切です。ここでは、日頃から取り組めるむし歯予防について紹介します。
ブラッシング方法を見直す
前歯のむし歯を防ぐために、最も有効なのは日々のブラッシングです。
前歯の表側は磨きやすいですが、裏側や歯と歯の隙間はケアが難しい部分です。前歯の裏側は唾液腺があるため、唾液の石灰化作用によって、溜まっている歯垢が固まり歯石になりやすい場所です。前歯の裏側を磨く場合は、歯ブラシを縦にし、しっかりとカーブに沿わせて上下に小刻み動かして磨きましょう。前歯と隣の歯が前後に重なっている部分なども磨き残しが生じやすいポイントです。重点的に磨くことでむし歯や歯周病の予防につながります。
さらに、歯間ブラシやデンタルフロス、マウスウォッシュの併用、フッ素入りの歯磨き粉を使うのもおすすめです。フッ素はエナメル質の修復を促進する働きなどがあります。フッ素入りの歯磨き粉で磨いた際は、フッ素を歯に長くとどめることが大切であるため、すすぎうがいは少ない水で1回のみ行うようにしましょう。すすぎすぎるとフッ素も洗い流してしまいます。
唾液の分泌を促進する
よく噛んで食事をする、ガムを噛む、マッサージをするなどでも、唾液の分泌を促すことができます。特に甘味料にキシリトールを使ったガムがおススメです。キシリトールには、むし歯の原因となる酸を中和する働きがあります。ただし、キシリトールはお腹がゆるくなる方もいるので、摂りすぎには注意してください。また、キシリトールのガムを噛んでいるからといって、歯磨きをしなくてよいわけではありません。
唾液の分泌を促すマッサージ
唾液の分泌を促すために、耳舌・顎舌・舌下の3か所にある唾液腺を刺激するのも有効です。舌を動かしたり、耳の下や顎の下を指で優しくマッサージしたりすることで、唾液の分泌が促されます。特に寝ている間は唾液の分泌が減るため、就寝前に行うのがおすすめです。
矯正を行う
歯並びが悪ければ自然と歯磨きがしにくくなるので、矯正を行うことも有効です。特に前歯の歯並びが悪いと隣の歯と重なる部分ができたり、唇が閉じにくくなったりします。唇が閉じにくいと常に口の中が乾きがちとなり、むし歯や歯周病のリスクが高くなります。いわゆる出っ歯・八重歯・すきっ歯の場合、見た目だけでなくむし歯の予防としても矯正をすることをおすすめします。
矯正の費用は高額になることもありますが、分割払いに対応していたり、歯科治療専用のローンを取り扱っていたりする歯科医院もあります。費用・料金が気になる方は、一度相談してみることをおすすめします。矯正はマウスピース矯正やインビザラインなど方法はさまざまですが、それぞれのメリット・デメリットをよく比較して、効果的な治療を受けることが大切です。
まとめ 大切な前歯がむし歯(虫歯)にならないようにきちんとケアしましょう
前歯は、しっかり磨いているつもりで、前歯の裏側や隙間などの磨き残しが多い部分です。そのため、前歯にむし歯ができてしまうことがあります。むし歯の進行状態によって適切な治療法は異なりますが、自分が何を一番優先したいかを考え、歯科医師と相談を重ねることが大切です。
また、むし歯が治った後も、再発を避けるために日々のブラッシングは欠かさないようにしましょう。
監修歯科医師:小山 安徳 先生
埼玉県越谷市にある「パラシオン歯科医院」診療医長。
東京歯科大学卒業。
口腔衛生学を専門とし、衛生学歯学の博士号も取得。日々の診療に加えて東京歯科大学でも非常勤講師を務める。
「歯科医院に対するイメージが当院で少しでも変わってもらえれば」との思いで、良い治療を多くの患者さんに届けることをモットーに日々診療を行っている。
パラシオン歯科医院のご紹介はこちら
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