(2024年2月16日更新)
歯周病は感染性の病気です。多くの成人が歯周病菌に感染しているとされています。歯周病は、感染しても全ての人が発症するわけではありませんが、20代でも約20%の人が発症しています。この記事ではキスや食器共有といった主な歯周病の感染経路をはじめ、潜伏期間、症状、予防する方法、歯科医院での治療などについて、詳しく解説していきます。
歯周病はどうやってうつる? 主な感染経路
歯周病は人から人へうつる病気です。特に、親子間やパートナー間で感染がおこりやすいと言われています。歯周病菌は、主に唾液を通して感染します。感染した菌が口内で増殖することにより歯周病が発症し、歯や歯ぐきに症状が表れます。歯周病菌は、飛沫感染や空気感染は起こりません。ここでは、感染のリスクがある経路と気を付けることを解説します。
キスで唾液が侵入することによる感染
唾液の中には歯周病菌が含まれているため、キスを通して唾液交換が起きることで感染します。ただし、歯周病を発症するかどうかは、口内環境や免疫力、生活習慣などによって変わります。細菌がキスによってうつったとしても、オーラルケアを適切に行っており免疫力が高ければ歯周病を発症しにくいです。
歯周病は、罹患者が非常に多い疾患です。厚生労働省が令和4年に実施した歯科疾患実態調査によると、過去1年間で歯科検診を受診した方の内、歯周ポケットが4 mm以上ある人は47.9%、20代の方でも21.2%という結果でした。歯周ポケットが4 mm以上というのは歯周病の目安の一つです。歯周病は、高い罹患率にもかかわらず、罹患していることを自覚しにくいのが厄介な点です。そのため、誰もが知らず知らずのうちに、誰かに感染させている可能性もあります。
食器やストローに付着した菌による感染
歯周病菌は唾液を通して感染します。これは、間接的に起こることもあり、歯ブラシや食器などを使いまわすことで、感染が広がる可能性があります。特に、箸やスプーン、ストローなどの直接口をつける物は共用をすることで感染を広げやすいです。できるだけ共用とせずに専用にするのが良いでしょう。もし使いまわす場合はきれいに洗ってから利用しましょう。
特に、近年注目されている「エコストロー」には注意しましょう。環境に優しく繰り返し使える点が魅力ですが、その構造上、きれいに洗うのが難しいことがデメリットです。繰り返し使えるストローは、それぞれ専用のストローを用意して使いまわさないようにしましょう。
親から子への感染
歯周病は、親子間でも感染しやすいです。生まれてすぐの乳児は、歯周病菌を持っていません。口内に元々いないはずの歯周病菌に感染する原因は主に親や兄弟、親しい間柄の方からのキスや食器の共有などで、歯周病菌が乳児の口内に侵入する機会が多いからです。
しかし、歯周病菌は歯と歯ぐきの間で増殖をするため、そもそも歯が生えていない乳児の口内には定着しにくいとされています。しかし、稀に発症することもあります。歯が生え始める生後6か月前後からは特に、キスや食器の共有は避け、歯周病菌がうつらないように予防しましょう。以前は一般的だった食べ物や飲み物の「口移し」も歯周病がうつる原因となるため控えた方が良いでしょう。
また、歯ブラシも感染経路となります。歯の仕上げ磨きをする際には、子どもそれぞれに専用の歯ブラシを用意することも忘れないようにしましょう。
鍋でも歯周病菌はうつる?
寒くなる冬場は、複数人で鍋を囲む機会も多いのではないでしょうか。実は、鍋も注意が必要です。他の人の箸で取り分けてもらったり、同じ器を使ってしまったりなどでも、歯周病菌がうつることもあります。取り分けるためのお箸や同じ器を共有しないようにしましょう。
歯周病は感染したら必ず発症する?
風邪と同じく歯周病も、菌に感染したからといって、必ず発症するとは限りません。そのため、過度に焦ったり怖がったりする必要はありません。口内を清潔に保つことで予防できます。発症しても、早期に対処すれば症状を改善することができます。ただし、発症する・しないは体調や免疫力の変化などにも影響されるので、もし「口がねばつく」「口臭がある」などの初期症状がある際は、早めに歯科医院を受診しましょう。
また、妊娠、喫煙、糖尿病なども、歯周病を誘発します。特に妊娠中の女性は、歯周病の初期段階である歯肉炎になりやすいとされていますが、妊娠中に歯周病になると早産や低体重児が生まれるリスクが高くなります。そのため、つわりなどで歯磨きがつらい場合は、安定期に歯科医院で治療を受けるのがおすすめです。妊娠中から歯周病菌が少ない環境をつくることで、生まれてくる子どもに感染させるリスクも低減できます。
歯周病菌の感染を予防する方法
歯周病菌への感染をしない・させないためには、一人ひとりが歯周病の予防・治療をしっかりと行い、口内環境を整えることが大切です。次に挙げるポイントをしっかりと押さえましょう。
食後すぐ、丁寧に歯を磨く
まずは、ひとに感染させず自分も感染しないために、自分の口内環境を改善することが大切です。そのために、毎日欠かさずセルフケアを行い、歯に付着したプラークを除去しましょう。
歯ブラシによるブラッシングでは、前歯の裏側・奥歯・歯がデコボコしている箇所までしっかり歯ブラシをあて、細かく振動させながら行いましょう。歯ブラシのヘッドはある程度の固さがあるものを選び、こまめに交換しましょう。
なお、歯磨き粉はフッ素配合のものがおすすめです。フッ素は長く口の中に留めることがポイントです。そのため、うがいは少なめの水で1回程度ですませるのがベストとされています。何度も洗い流すとフッ素も流されてしまいます。その後1~2時間は飲食をしないように気をつけましょう。
さらに、歯と歯の間、歯と歯ぐきの間に潜んでいる歯周病菌を除去するため、歯間ブラシやフロス(歯間糸)も使いましょう。この際には、歯ぐきを傷つけないよう注意しましょう。菌の付着を防ぐマウスウォッシュもおすすめです。
<歯周病を予防するために必要なことはこちらの記事を参考にしてみてください。>
健康的な食習慣を心がける
免疫機能が低下していると歯周病になりやすくなるため、免疫力の基本となる健康的な食習慣を心がけることも大切です。いろいろな食材をバランス良く食べることは、口内と全身の健康に欠かせません。
それに加えて、歯周病の予防に良いとされる栄養素も積極的に摂りましょう。代表的なものが、歯周組織を作るために必要なタンパク質です。また、ビタミンCや鉄分も歯周病によって傷ついた歯ぐきの再生を促してくれます。マグネシウムや、青魚などに含まれるオメガ3脂肪酸のDHA、ビタミン類なども、歯周病の予防に有効です。
一方、糖質の摂り過ぎは、むし歯だけでなく歯周病のリスクも高くなります。お菓子や甘い飲料、炭水化物はあまり食べ過ぎないようにしましょう。食べた後は、歯磨きを忘れずに行いましょう。
禁煙する
喫煙者は禁煙者よりも歯周病のリスクが高いため、タバコを吸っている方は、禁煙も検討してみましょう。
タバコに含まれる有害物質は、血管を収縮させるため、歯ぐきへ行き渡る酸素や栄養を減らします。その結果、歯周ポケット(歯肉の溝が炎症を起こし病的に深くなったもの)内で細菌が繁殖しやすい環境をつくり出してしまいます。それだけでなく、歯ぐきの傷を治す働きを抑制してしまうことも問題のひとつです。喫煙者は、歯磨きや歯石除去、治療の効果が出にくく、治りが悪いことも指摘されています。
歯周病だけでなく全身疾患のリスクも高まるので、喫煙者の方は、医療機関で禁煙のサポートを受けるのもおすすめです。
歯科検診・クリーニングを行う
毎日こまめにセルフケアをしても、歯石や歯周病菌を完全に取り除くことは困難です。そのため、歯科医院でのケアも大切です。口内の定期的なチェック、クリーニングをしてもらうことで、口内を清潔に保ち歯周病予防につなげましょう。
歯科医院での定期検診は、3か月~半年に一度の周期で受けることが推奨されています。すでに症状がある方はこの期間よりも短くなることもあります。歯科医師と相談の上、ムリなく通えるスケジュールを決めていきましょう。
歯周病によって起こる症状
本記事ではまとめて「歯周病」としていますが、厳密には歯肉炎と歯周炎とに分けられます。歯肉炎は歯周病の初期段階で、それが進行すると歯周炎になります。それをふまえて、それぞれの段階の症状を解説します。詳しくは以下の記事も参考にしてみてください。
歯肉炎
まず、歯ぐきの赤み・腫れ・出血などの症状があれば、歯周病の初期段階である歯肉炎になっているおそれがあります。歯磨きをしていて歯ブラシに血が付着するなどの場合には、早めに歯科医院を受診しましょう。歯肉炎の段階でも、歯ぐきで細菌が増殖をしており、口臭が発生します。口臭は、全身疾患や体調不良などにより発生することもありますが、主な原因は歯周病や舌苔(舌の汚れ)です。
歯周病菌の生成する成分が口臭のもとになります。継続的な口臭がある場合には、歯肉炎や歯周炎が疑われます。客観的に口臭レベルを測定する機器などを用いて、口臭の有無とレベルを調べることができるので、歯科医院で相談してみるのも良いでしょう。
歯周炎
歯肉炎が進行すると歯周炎となります。この段階まで進行すると、歯ぐきなどの歯周組織の損失により、歯ぐき下がりや歯のぐらつきが始まります。重度に進行した歯周炎では、歯周ポケットから膿が出たり、骨が溶け出して歯がぐらつき脱落したりします。悪化した状態が続くと、細菌が口内の血管から全身へ回って、心筋梗塞や脳梗塞を誘発するリスクもあります。
歯周病をうつさない、感染しないためには免疫力向上と口内ケアが大切
歯周病の原因は、口内の歯周病原菌です。その感染経路は、パートナーとのキス、食器の共用など、主に唾液の接触によるものです。感染してもすぐ発症するとは限りませんが、免疫力の低下など、各種要因で歯周病になりやすくなるとされています。歯周病をうつさない・うつらないためには、免疫力を高め、セルフケアと定期受診を続ける予防の取り組みが大切です。
監修歯科医師:横山 知芳 先生
神奈川県横浜市にある横山歯科医院 院長。
鶴見大学歯学部卒業。
学生時代はラグビー部に所属しチームプレーを学んだことから、チーム医療での患者様のサポートをモットーとしている。
歯科の最新の技術にアンテナを張り、勉強やトレーニングにも積極的に力を注いでいる。
第87期JIADSペリオコース修了。皆川アカデミーインプラントコース修了。国際インプラント学会認定医(DGZI)。
横山歯科医院のホームページはこちら
http://www.yokoyamashikaiin.jp/