歯ぐきに水ぶくれができた場合、さまざまな原因が考えられます。たとえ痛くなくても放っておくと悪化するおそれもあるため、早めに適切な対処をすることが大切です。今回は、歯ぐきに水ぶくれができる原因や治療法、予防法を解説します。
歯ぐきに水ぶくれができる主な原因
歯ぐきに水ぶくれができる主な原因として、以下の疾患が考えられます。
粘液嚢胞(ねんえきのうほう)
口内の粘膜を噛んだり、歯ブラシなどの硬いもので傷つけたりした時に、唾液腺の管が詰まり、本来なら外に排出される唾液が粘膜の下にたまって袋状になることがあります。これが粘液嚢胞です。下唇や舌の裏側などによくできます。見た目は粘膜の色合いに近いピンク色をしており、触るとやわらかいのが特徴です。痛みや炎症を伴うことはほとんどありません。放っておいても自然治癒することはまれであり、再発するケースも多く、完全な治癒に至ることは難しいとされています。
<粘液嚢胞についてはこちらの記事で詳しく解説していますので、読んでみてください。>
ヘルペス性歯肉口内炎
単純ヘルペスウイルスに感染して発症する口内炎です。38~40℃の高熱が3~4日ぐらい続き、ピリピリした痛みやむず痒さが出た後、舌や唇、歯ぐき、喉の奥などが赤くなって小さな水泡が多発します。水ぶくれはすぐに潰れて潰瘍化し、強い痛みを伴うのが特徴です。乳幼児に多く見られますが、大人にも起こることはあります。初期の段階では一般的な口内炎(アフタ性)と見分けるのが難しいため、症状の判断に迷ったら医療機関の受診を検討することが大切です。
フィステル(サイナストラクト)
フィステルとは、むし歯や歯周病などにより歯や歯ぐきに炎症が発生した際に、歯根の先端にたまった膿を外に出そうとして出口を作ったものです。「サイナストラクト」や「瘻孔(ろうこう)」とも呼ばれています。白いニキビのような見た目をしており、基本的には痛みをほとんど感じないため、気づかないことも珍しくありません。膿がたまると膜が破れて膿を排出し、一時的にフィステルが小さくなりますが、根本的な原因が解決しない限り、また膿がたまる・破れるを繰り返します。
<フィステルについて詳しくはこちらの記事で解説していますので、参考にしてみてください。>
血腫(けっしゅ)
血腫は内出血の一種で、粘膜下に血液がたまり、突起状になったものです。いわゆる血豆のことで、水ぶくれのような赤紫色の腫れが見られます。多くの場合、痛みを感じることはありません。血腫の原因として多いのが外傷です。誤って口の中を噛んだり、寝ている時に歯ぎしりをしたりして粘膜が傷つくと、血腫ができることがあります。血腫が何度も同じところにできる場合、歯並びや噛み合わせ、矯正器具などが関係していることが考えられます。
脂肪腫
脂肪腫は、脂肪細胞の増殖によって生じる良性の腫瘍です。体中のどこにでもでき、、まれに歯ぐきにも発生します。白いぷくっとした小さな膨らみで、触るとやわらかく弾力のあるしこりとして感じられます。痛みが出ることはほとんどありません。自然に消えることはなく、ゆっくりではありますが少しずつ大きくなります。
痛い水ぶくれと痛くない水ぶくれは何が違うの?

ヘルペス性歯肉口内炎のように、口の中の炎症や感染が原因で発生する水ぶくれは、赤みを帯びて腫れ、触ると強い痛みを感じることが多いのが特徴です。炎症反応による痛みを起こす物質の発生や、組織の損傷が原因となって痛みが起こると考えられています。
一方、粘液嚢胞やフィステル、血腫などが原因の水ぶくれは痛みを感じることはほとんどなく、舌先で歯ぐきを触った時などに違和感がある程度です。痛みがないと軽視しがちですが、水ぶくれが潰れた部分に細菌が入って感染や炎症のリスクが高まったり、再発を繰り返したりするおそれがあります。痛みの有無から自己判断することは難しいため、早い段階で適切な診断と治療を受けることが大切です。
一方、粘液嚢胞やフィステル、血腫などが原因の水ぶくれは痛みを感じることはほとんどなく、舌先で歯ぐきを触った時などに違和感がある程度です。痛みがないと軽視しがちですが、水ぶくれが潰れた部分に細菌が入って感染や炎症のリスクが高まったり、再発を繰り返したりするおそれがあります。痛みの有無から自己判断することは難しいため、早い段階で適切な診断と治療を受けることが大切です。
歯ぐきにできた水ぶくれの治し方
水ぶくれの対処法は、原因となる疾患によって異なります。それぞれの治し方・予防法を解説します。
粘液嚢胞
治し方
何度も再発を繰り返す場合は、外科手術による摘出が一般的です。水ぶくれの原因となっている小唾液腺を周辺部の組織を含めて取り除きます。自然に治ることもあるため、3か月から半年ほど経過観察を行うこともあります。
予防法
日常生活では、硬い食べ物や歯ブラシでの刺激を避けることが予防になります。頬や唇を噛む癖も粘膜を傷つける原因になるため、注意したほうがいいでしょう。
ヘルペス性歯肉口内炎
治し方
抗ウイルス薬の早期投与が有効です。強い痛みや発熱を抑えるために解熱鎮痛剤を用いることもあります。痛みや熱で水分や食事がとりにくいこともりますが、脱水症状とならないよう、水分を十分に摂取することが大切です。治療期間は個人差がありますが、多くの場合1〜2週間ほどで症状は改善に向かいます。
予防法
感染予防として、せっけんでの手洗いやうがいを徹底することが大切です。また、ストレスや疲労による免疫力の低下も発症の一因とされているため、十分な睡眠をとり、趣味や運動など自分に合ったストレス解消法を見つけることが予防につながります。
フィステル(サイナストラクト)
治し方
フィステルができている歯の根は、細菌に感染しているため、根管治療によって歯の内部の細菌や膿を取り除き、清掃・消毒を行います。必要に応じて、抗生物質が処方されることもあります。
予防法
フィステルができるのを防ぐには、歯ブラシやフロスを使った日々の口内ケアと、歯科医院での定期的なメインテナンスを行うことが重要です。むし歯や歯周病の治療を中断すると、細菌が増殖して膿がたまりやすいため、必ず最後まで終わらせましょう。
血腫
治し方
一般的な血腫であれば、とくに治療は必要ありません。時間とともに自然と吸収され、消失することがほとんどです。しかし、同じところを何度も噛む場合や長期にわたって治らない場合は、噛み合わせに問題があったり、大きな病気が隠れていたりすることがあるため、一度歯科医院を受診することをおすすめします。
予防法
食事中に口の中を噛む、硬い食べ物で粘膜を傷つけるといった行為は避けましょう。また、強いストレスを感じると、無意識に頬の内側を噛んだり、歯を食いしばったりすることが多いため、血腫ができやすくなります。ストレスをできるだけためないよう心がけましょう。
脂肪腫
治し方
脂肪腫は良性の腫瘍なので、放っておいても命に関わることはありません。しかし、自然に小さくなることはなく、少しずつ大きくなるため、根治には切除が必要です。脂肪腫が小さい場合は、局所麻酔による簡単な手術で済みます。
予防法
食生活や生活の乱れは、脂肪腫のリスクを高めます。バランスのとれた食事や適度な運動、規則正しい生活を心がけましょう。
歯ぐきに水ぶくれができた時の注意点

水ぶくれを潰さない
水ぶくれを自分で潰そうとすると、破れた部分から細菌が入って感染や炎症が起きるリスクが高まり、症状を悪化させるおそれがあるため注意が必要です。もしも自然に水ぶくれが破れてしまった場合は、こまめに口をゆすぐなどして、傷口を清潔に保ち、感染や炎症を防ぎましょう。
できるだけ刺激を与えない
水ぶくれに刺激を与えると、痛みが生じたり、炎症が悪化したりすることがあります。辛いものや熱いものを控える、歯ブラシは毛先がやわらかいものを使用して優しく歯磨きをするなど、できるだけ刺激を与えないことが大切です。
ウイルスによる二次感染を防ぐ
歯ぐきの水ぶくれは、ヘルペス性歯肉口内炎のようにウイルス感染によって発症することがあり、人にうつるおそれがあります。ヘルペス性歯肉口内炎の症状がある方は、二次感染を防ぐため、患部に触れた後はせっけんで手をキレイに洗いましょう。ウイルスがついたタオルや食器からも感染するため、共有は避けてください。
歯ぐきの水ぶくれは痛みがなくても潰さず早めに適切な対処を

歯ぐきにできる水ぶくれは、原因によって症状や対処法がさまざまなので、適切な治療を受けることが大切です。たとえ痛みがなくても、放っておくと症状が悪化するおそれがあります。大きな病気が隠れているケースもゼロではありません。歯ぐきに繰り返し水ぶくれが生じる場合や症状が長引く場合は「そのうち治るだろう」と安易に考えて放置せず、早めに医療機関に相談しましょう。