この記事では、オーラルケアのあれこれについて、良いと思って続けている習慣が逆効果になるケースや、効果的なケアの方法を歯科医師の照山裕子先生に解説していただきました。
毎日きちんと歯を磨き、フッ素入り歯磨き粉や歯間ブラシ、フロスも取り入れている。
それでも、むし歯や歯周病、知覚過敏、歯ぐき下がりが気になる――。
もしかすると、良いと思って続けているオーラルケアが、歯や歯ぐきの負担になっているかもしれません。
オーラルケアのあれこれについて、歯科医師の照山裕子先生に伺う集中連載。
第1回は「実は意味がない・逆効果なオーラルケア」をテーマに、良いと思って続けている習慣が逆効果になるケースや、効果的なケアの方法を解説していただきます。
お話を伺った先生
照山 裕子 先生
略歴
・歯科医・歯学博士
・BLOOM ORAL CARE Tokyo院長
・東京科学大学(旧・東京医科歯科大学)
非常勤講師 顎顔面補綴外来
幼少期に通っていた歯科医院での楽しい思い出から「痛くない治療ができる先生になりたい」と歯科医師を志す。歯学部卒業後は博士課程に進み、口腔と全身のさまざまな相関について学んだ臨床経験から、病気の早期発見につながるオーラルケアの重要性を啓発している。
最新の医学データに基づいたわかりやすい解説が反響を呼び、テレビ・ラジオ出演他、多数出演。
2017年に出版した『歯科医が考案・毒出しうがい』が13万部を超えるベストセラーとなる。
【BLOOM ORAL CARE Tokyo】
https://bloom-oralcare-tokyo.jp/
「磨いているのに良くならない」方の思い込みについて
一生懸命ケアしている方ほど、磨く回数や時間ではなく「どこを磨いているか」を見直す必要があるかもしれません。
真面目にケアしているのに良くならない方に多い、思い込みはありますか。
多いのは「毎日磨いているから大丈夫」という思い込みです。
皆さん、小さい頃から「歯全体を磨きなさい」と教えられてきたと思います。
ただ、実際には自分がどこを磨いたらいいかわからないまま、磨きやすい白い部分だけをゴシゴシ磨いている方が圧倒的に多いんです。
白い部分はそもそも汚れがつきにくい部分ですので、磨き続ける必要はありません。
磨かなければならないのは、(歯のかみ合わせの)凹凸や歯と歯の隙間など、食べ物が入り込みやすい部分です。
どこに汚れが残りやすいのかを意識しないまま歯ブラシを当てても、歯磨きの効果は期待できません。
まずは鏡を見ながら歯ブラシを当てる場所を確認するといいですね。
毛先がどこに当たっているのかを把握しないまま歯ブラシを動かすのは、避けたい磨き方です。
歯磨き後のうがいとフッ素の残し方について
歯磨き後には口をすすぐのが一般的です。
「すすぐ回数は、その前の歯磨きの仕方と合わせて変えるべき」と照山先生は話します。
「フッ素を残すためにはうがいをしすぎないほうがいい」とも言われます。推奨される歯磨き後のうがいの回数はどの程度なのでしょうか。
少ない水で1回だけ口をすすぐのは、フッ素を残すためのすすぎ方としてはスタンダードなやり方です。
ただし、それは「口内があまり汚れていない人」という前提でお話ししています。
日本では樹脂(プラスチック)や金属の詰め物、被せ物が入っている方や、歯並びに凹凸がある方も少なくありません。そうした口内環境では、必ずしもこのやり方が適切とは限りません。
例えば、口内に歯垢などのバイオフィルム(細菌などの微生物が集合し、作り出したネバネバとした塊(かたまり))が多く残っているなら、まずは汚れを吐き出し、必要に応じてすすぐといった対応が大切です。
そもそも、学術的に「必ず何回すすぎなさい」と決まっているわけではありません。ご自身の口内環境に合わせて、適切なすすぎ方を選ぶ必要があります。
歯磨き粉のフッ素を効果的に活かすには、どのようなケアが考えられますか。
二度歯磨きを行う「ダブルブラッシング」がおすすめです。
1回目はしっかり磨いて、すすぎもしっかりして汚れを吐き出し、歯面をツルツルにする。
そのうえで、高濃度フッ素を歯ブラシで擦り込み、今度はあまりすすがない。
そうすると、一度バイオフィルムを剥がしてからフッ素を歯に届けられるので、より確実です。
汚れの上からフッ素でコーティングしないよう、まずは歯面をキレイにするのが大切です。
最近は、ダブルブラッシングを推奨している歯科医院が増えています。
ダブルブラッシングが合わない方もいます。
そのため、歯科医院で口の状態に合わせたケアの仕方を聞くのが近道です。
朝・昼・夜の歯磨きの優先順位について
毎食後に歯磨きの時間を取れない場合、回数よりも質と優先順位を意識することが大切です。
1日何度も歯磨きをする上で、いつの歯磨きが重要でしょうか?
歯科医師としておすすめしているのは夜の歯磨きです。
意外と知らない人も多いですが、夜寝ている間は唾液が少なくなり、汚れが洗い流されにくくなるため細菌が繁殖しやすく、むし歯や歯周病のリスクが高まります。ところが実際に患者さんに聞いてみると、朝は磨くけれど夜はサボりがちという方が少なくありません。
朝起きた時は、まずは口を水ですすいでリセットするとよいでしょう。水ですすぐだけでも細菌数自体を減らせることが研究でも分かっています。昼にしっかり磨く時間を取れない場合も、歯間ブラシで隙間の汚れを取ったり、水ですすいだりするだけでも構いません。歯磨きの回数を増やすことを目的とせず、口内に汚れを残さないように対策を取るのが大切です。
歯磨きは1日3回必要ですか。
学術的には、1日2回の歯磨きと3回の歯磨きでは、病気の発生自体は変わらないと言われています。
すっきりしたい方が何度も磨きたいなら止めませんが、夜にしっかり磨けているなら、翌朝に食べかすや歯垢が多く残っているわけではありません。朝一番にゴシゴシ磨く必要は、必ずしもないと考えられます。
とはいえ、口内環境によって必要なケアは変わります。歯並びが悪いなどむし歯リスクや歯周病リスクが高い方は、歯磨きの回数を増やすなど、その分こまめなケアを意識したほうがよいでしょう。
大人の歯磨きで一番ポイントなのは「自分の口を知ること」です。
ゴシゴシ磨きとかための歯ブラシについて
「しっかり磨いた感」は、必ずしも汚れ落ちとは一致しません。力任せのブラッシングやかための歯ブラシは、汚れを十分に落とせないだけでなく、歯や歯ぐきに負担をかける場合があります。
力を入れてゴシゴシ磨いたほうが、汚れは落ちますか。
力を入れたゴシゴシ磨きは推奨しません。
歯垢はやわらかい汚れで、付着はそれほど強いものではありません。
強い力で落とそうとすると、必要以上に「強く・長く・頻繁に」磨くオーバーブラッシングになりやすく、歯や歯ぐきに負担をかけてしまいます。
大事なのは力ではなく、歯ブラシを当てる場所と動かし方です。
かための歯ブラシはどうでしょうか。
歯垢は力でこそげ落とすものではありません。
そのため、歯科医院で扱う専売品にかための歯ブラシは基本的にありません。
一般向けのかための歯ブラシは、磨いた感やさっぱり感を得るためのツールという面が大きいと思います。
大人が注意したい場所は歯と歯ぐきの境目(いわゆる歯周ポケット)です。
かための歯ブラシはこうした場所に当てると必ず痛みが出てくるので不向きです。
どうしても使いたい方は、2種類を使い分けるようにして下さい。
電子顕微鏡レベルで見ると、奥歯の深い溝を強くこすっても、溝の中まで毛先は入っていかないことが分かっています。
つまり、奥歯のくぼみのむし歯予防はフッ素の化学的作用でしか予防できないので、硬さは不要なのです。
先生はどのような歯ブラシをおすすめされますか。
毛の硬さはやわらかめかふつうがおすすめです。
ヘッドは親指の爪程度の小さめ、毛先がフラットなものが入門編として使いやすいでしょう。
小回りが利くサイズのほうが歯のくびれや凹凸に当てやすいので、しっかり磨けると思います。
磨きすぎによる歯ぐき下がりや知覚過敏について
歯磨きは回数を増やせばいいとは限りません。オーラルケアへの意識が高い方ほど、知らないうちに磨きすぎている場合があります。
磨きすぎると、歯や歯ぐきにどんな影響がありますか。
強すぎる力で磨き続けると、歯の表面を覆うエナメル質が物理的に削れ、ダメージにつながることがあります。
歯ぐきにも負担がかかり続けるため、弾力がなくなり縮み、歯ぐき下がりにつながる点にも注意が必要です。
近年は口内環境への意識が高い方が増える一方で、こうしたオーバーブラッシングが問題になっています。
私のクリニックにも「歯が長く伸びてしまった」と相談に来られる方がいますが、実際には歯が伸びたのではなく、強いブラッシングによって歯ぐきが下がり、歯の根元など敏感な部分が露出して、知覚過敏が起きているケースが少なくありません。
下がってしまった歯ぐきは元に戻らないのでしょうか?
摩擦をなくすことで、これ以上悪くならないように予防はできますが、完全に元に戻すのは難しいのが現実です。
だからこそ、自分の歯並びや口内環境のリスクを把握し、小回りの利く歯ブラシ、フロス、タフトブラシなどのグッズを、適材適所で賢く使っていただくことが、人生100年時代に自分の歯を残す鍵になります。
歯間ブラシ・フロス・舌磨きの注意点について
歯間ブラシやフロスは有効なケアですが、サイズ選びや力加減を間違えると、逆効果になることもあります。
歯間ブラシの使い方で注意すべきことはありますか。
歯間ブラシは、サイズ選びに注意が必要です。歯の隙間のサイズは、同じ方の口の中でも場所によって異なります。
1人の患者さんでも3種類の歯間ブラシをすすめることもあります。
一気に歯垢を取りたいからといって、大きいものを無理に入れると、歯ぐきを下げてしまう原因になりかねません。
場所ごとに的確なサイズの歯間ブラシを使い分けるのが理想ですので、歯科医院でサイズを確認してもらうのがいいでしょう。
フロスや舌磨きにも注意が必要でしょうか。
糸状のフロスは、歯のカーブに合わせて汚れをからめ取るように使います。
正しく使えれば、フロスだけで大半の汚れが落ちます。力任せに押し込み引っ張り上げるように使ってしまうと、治療した詰め物や被せ物が取れてしまうケースもあります。
フロスを使うのに強い力は要りませんので、丁寧に扱うよう心がけてください。
ホルダー付きのフロスは入門用としては悪くありませんが、一方向にしか動かせないので、糸状のフロスほど万能ではありません。
フロスを使う感覚をつかめる程度に慣れてきたら、糸状のフロスにステップアップしてもいいと思います。
舌磨きは、1日1回、1日3回と頻度を決めて行うものではありません。
毎日の習慣としてこすりすぎた結果、傷がついた状態で来院される方もいます。
こすりすぎによる味覚障害も心配です。舌を鏡で見て、白っぽい、茶色っぽい、何か汚れていると感じたらケアをする程度で十分です。
忙しい方が最低限続けたいケアについて
毎日すべてのケアを完璧に続けるのは簡単ではありません。
照山先生ご自身の経験を踏まえ、最低限優先したいケアとして「隙間のケア」を挙げます。
最低限続けるべきオーラルケアは何でしょうか。
絶対に優先してほしいのは「隙間」のケアです。
私自身も、どれだけ疲れている日でも、寝る前にフロスだけは使うようにしています。
歯ブラシでしっかり磨く元気がない時でも、フロスは慣れれば1分でできますので、最低限隙間のケアだけはしていただきたいですね。
もう一つ大事なのは、詰まりやすい場所を放置しないことです。
食べ物が詰まる状態は加齢によって起きることもありますが、「ふつうのこと」として放置しないほうがよいでしょう。
毎日フロスをしてもすっきりしない、いつも同じところに挟まるという方は、セルフケアだけで解決するのではなく、歯科治療で詰まりにくい環境に改善することも検討してください。
オーラルケアは、その方の口の状態によって適切な方法が大きく異なります。
口の中のどこにリスクがあるのか。どこに汚れが溜まりやすいのか。
どの道具を使うべきなのか。
ご自身の口の状態を理解することで、やりすぎにも不足にもならない、適切なオーラルケアができるようになるでしょう。