(2022年12月26日更新)
【医師監修】
炭酸飲料を飲んだなどの心当たりがないのに、普段よりもげっぷやおならが多いのは「呑気症(どんきしょう)」もしくは「空気嚥下症(くうきえんげしょう)」と呼ばれる病気が原因かもしれません。呑気症とは、空気を大量に飲み込むことで、胃や腸に空気のガスが溜まる病気のことです。この記事では、呑気症や歯の噛みしめによって生じる噛みしめ呑気症候群の原因と対策、セルフチェックについてご紹介します。
呑気症とは
唾液を飲み込む際には、無意識のうちに空気も飲み込んでいます。その量は1回につき3~5 mLとも言われています。これにより、胃や腸の消化器官に空気のガスが溜まり、げっぷやおならの回数が多くなるのです。この症状を呑気症と言います。呑気症は、日本人の1~2割の割合で見られ、特に20~50代の女性の方に多く見られます。
また、歯を噛みしめる癖が原因で呑気症を引き起こす「噛みしめ呑気症候群」になる方もいるようです。歯を噛みしめると唾液を飲み込む回数が増えて、それに伴い空気を込み込む回数も増加します。そのため、呑気症になりやすくなるのです。
吞気症の症状セルフチェック
呑気症や噛みしめ呑気症候群には、げっぷやおならが頻繁に出ること以外にも症状があります。主な症状は、下記の通りです。病院に行く際はこちらを参考に、どのような症状があるのかを事前にセルフチェックしてみましょう。
【呑気症の典型的な症状】
- げっぷが1日に何度も出る
- おならが1日に何度も出る
【げっぷやおなら以外の症状チェック】
- 胃もたれや胃の不快感
- 腹部膨満感(お腹の張り)
- 左上腹部の痛み
- 食欲不振
- 逆流性食道炎が原因の胸やけ
- 心臓など胸部の痛み
吞気症は、まず胃の中にガスが溜まり、胃が膨張します。そのため、げっぷやおならの回数が増える症状の他に、胃の不快感を覚えたり、胃もたれを感じたりする他、食欲不振にもつながります。また、胃が膨らむことで胸の辺りが圧迫されて、痛みなどの症状もあるようです。
逆流性食道炎によって胸やけが起きるのは、胃に空気が溜まることで食道のつなぎ目も伸びて緩み、胃酸が食道側に流れやすくなるためです。これによる胸やけ感を、心臓などの胸部の痛みのように感じることもあります。
【食いしばりのある方はこちらの症状も一緒にチェック】
- 顎の痛みや頭痛、肩こりがある。
- 歯の違和感、歯ぎしりによる知覚過敏がある。
噛みしめ呑気症候群のその他の症状として、噛みしめることで顎に痛みが生じるケースがあります。また、噛むときに使う筋肉である咬筋(こうきん)や、耳の辺りにある側頭筋といった筋肉が過剰に使われることで、頭痛や肩こりにもつながります。歯の違和感や、歯ぎしりによる知覚過敏に発展する場合もあります。
呑気症の原因と対策
ここでは、呑気症の主な原因とその対策について紹介します。
食事の仕方:早食い・炭酸飲料の常飲
早食いをする方や炭酸飲料を飲む方は、空気をたくさん飲み込む傾向にあり、胃や腸に空気が溜まってしまいやすいです。胃の空気が逆流するとげっぷとして、小腸を通過して大腸に溜まるとおならとして、体の外に出てきます。
<対策>
食事は良く噛んで、ゆっくり食べたほうが良いです。特に麺類やスープ、飲み物などをズルズルとすするように摂ると、飲み込む空気量が多くなるため、できるだけ静かに流し込むように口に入れましょう。
また、胃腸に負担をかける揚げ物類や、腸管内でガスを発生しやすいビールや炭酸飲料の摂り過ぎにも注意が必要です。
緊張やストレス
緊張やストレスが原因で呑気症や噛みしめ呑気症候群になる方もいます。緊張したりストレスを察知したりすると、身体はストレスと戦う準備を始めます。そしてストレスに耐えるために、無意識に歯を接触させ、噛みしめてしまいます。噛みしめる頻度が高くなると、同時に空気を飲み込みやすくなるため、呑気症になります。
また、緊張していると呼吸が浅くなり、身体が軽い酸欠状態になります。すると、身体は溜息を吐くことで不足している酸素を補おうとします。溜息を吐いた後は唾を飲み込むことが多いため、同時に空気を飲み込みやすくなります。
<対策>
ストレスを解消するには、原因となっているものを頭から切り離すのがポイントです。散歩やウォーキング、ジョギングなど、自分のペースに合った方法で体を動かすことは、気分転換になります。その際は、ぜひ深い呼吸を意識してください。
また、睡眠時間をしっかり確保して身体を休めることもストレス解消やリラックスにつながります。
趣味を楽しむのもおすすめです。毎日少しずつで良いので、ストレスを軽減していきましょう。
歯の噛み合わせ・噛みしめやすい姿勢
歯の噛み合わせが悪い方も空気を飲み込みやすいため噛みしめ呑気症候群になりやすい傾向にあるようです。
また、パソコンやスマートフォンの使用時間が長くなると、無意識のうちにうつむき姿勢になります。そうすると、上下の歯が触れやすくなり、歯を噛みしめてしまうことがあります。工作や読書、家事をしているときにもうつむき姿勢になりやすいです。
無意識のうちに歯を噛みしめている方は意外と多いです。
気になる方は、食いしばりのセルフチェックをしてみましょう。
□上と下の歯の噛み合わせ面が擦り減って平らになっている
□歯の外面と歯ぐきの境目部分に、削り取られたような傷(跡)がある
□舌のふちに歯型が付いている
□歯に接している頬の内側に白い線ができる
<対策>
噛み合わせは、自力で改善することはできないため、歯科医院で歯列矯正をする必要があります。
噛みしめは、繰り返していると次第に癖になってしまうため、日常生活で噛みしめに気づいたときはすぐに改善するのがポイントです。有効なのは、深呼吸です。口から息を吐くときに、歯の噛み合わせがゆるむためです。また、深呼吸にはリラックス効果もあるため、ストレスを軽減することもできます
仕事や工作、読書、家事に没頭しているときこそ、一度深呼吸を行うようにしましょう。
噛みしめ癖のある方は「スプリント」と呼ばれるマウスピースの使用をおすすめします。スプリントは歯科医院で作成することができます。呑気症の症状がない場合でも、その予防のため、歯科医院に相談をしてみてください。
マウスピースに関する詳しい情報はこちらの記事でご紹介しています。
鼻炎
鼻炎持ちの方は鼻をすする際に、空気も一緒に飲み込みやすい傾向にあります。鼻をすすると鼻水が喉の方に落ちていき飲み込もうとするため、頻度が多いほど、空気も多く飲み込んでしまいます。
<対策>
鼻炎と一口に言っても、急性鼻炎、慢性鼻炎、アレルギー性鼻炎などの種類があります。風邪の一種である急性鼻炎の場合は、鼻の炎症を抑える薬や抗生剤などを服用しましょう。季節を問わず鼻水や鼻詰まりなどの症状がある慢性鼻炎の場合は、部屋の湿度を高めたり、温めたりするなどで改善が見られることがあります。花粉やハウスダストなどのアレルゲンが原因のアレルギー性鼻炎の場合は、アレルゲンとなる物を吸い込まないようにしたり、室内から排除したりといった対策が必要です。
いずれの場合でも、症状が悪化した時や改善が見られない時は、耳鼻咽喉科で診察してもらい、適切な処方薬を服用しましょう。
呑気症は何科を受診すべき?
げっぷは、胃腸の疾患が原因で多くなることもあります。げっぷやおならの回数が多くなったと感じる方は、まずは内科や消化器内科を受診しましょう。原因によっては、歯科や心療内科を受診する必要があります。
1. まずは内科を受診する
胃腸の疾患により、げっぷの回数が増えている場合もあります。まずは内科や消化器内科を受診して、食道や胃、腸に異常がないかどうか検査を行い、診断を受けましょう。内科で処方された整腸剤やガスを減らす薬を服用しても改善が見られない場合や、噛みしめ・呑気症候群の疑いがある場合は、歯科や心療内科を受診しましょう。
2. 歯のかみしめが原因の方は歯科医院を受診する
起床時に歯や顎が痛んだり、頭痛が生じたりしている方は、就寝時に歯を噛みしめている可能性があります。デスクワークなどによりうつむき姿勢が多い方や仕事で緊張状態が続いている方も、歯を噛みしめる癖がついている可能性が高いです。
また、噛みしめによりげっぷやおならの回数が増えている方は、歯科医院を受診してスプリントを作成してもらいましょう。
3. ストレスが原因の方は心療内科を受診する
ストレスに心当たりのある方は、軽い運動や友人と会うなど、自分が気分転換できる方法でストレスを解消することから始めるのをおすすめします。ストレスが軽減されない場合は、心療内科を受診して、医師に相談しましょう。
げっぷやおならが出そう! 予防法と応急対策
周りに人がいるときにげっぷやおならが出そうになってしまったら、何とか我慢したいですよね。かといって、我慢してしまうと腹部に強い負荷がかかってしまい、体に良くありません。ここでは、げっぷやおならが出てしまいそうな時の応急対策や予防法をご紹介します。
げっぷに効くツボ「中脘(ちゅうかん)」を押す
おへそとみぞおちの真ん中にある中脘というツボを押すことで、げっぷを促すことができます。胃の上部にあるツボであるため、刺激することで胃の動きが促され、げっぷが出やすくなると考えられます。げっぷを抑えることはできませんが、自分の決めたタイミングで先に出しておくことで、予期せぬタイミングで出てしまうことの対策になるでしょう。
げっぷを出しておくことは、おならの予防にもつながります。げっぷを我慢すると、飲み込んだ空気はいずれ腸へと移動し、結局おならとして出すことになるからです。
おならの音を抑えるには肛門を広げる
おならの音がでてしまうのは、肛門からガスが出るときに、その出口が狭いからです。口をすぼめて息を出そうとするときに、出口が小さいと唇が振動して音が出ますが、口が広がると静音になるのと同じ原理です。
座っている場合は、身体の重心を左右どちらかに寄せて(左右どちらかのお尻に体重をかけるイメージ)、力を抜いておならを出すことで、音を抑えることができます。重心を寄せたあと、可能であれば、肛門を広げるように浮いている方のお尻を手で引っ張ると、より音が出てしまうリスクを軽減できるでしょう。立っている場合は、肛門が開くように両手でお尻を外側に引っ張ることで、応急処置になります。
市販薬を服用する
市販薬を利用するのも一つの手段です。ここでは、おすすめの市販薬をいくつかご紹介します。
ただし、呑気症の原因はストレスなどによる場合もあるため、その原因が取り除かれない限りは改善されません。薬を飲んで症状が軽減しても、治ったわけではないことに注意が必要です。市販薬の服用は、あくまでも病院で診察を受けて適切な治療をするまでのつなぎと捉えて使用することをおすすめします。
<おならが出る場合>
・小林製薬 ガスピタン
https://www.kobayashi.co.jp/brand/gaspitan/
・大幸製薬 ラッパ整腸薬BF
https://www.seirogan.co.jp/products/bf/
ガスピタンとラッパ整腸薬BFには、ガスを抑える作用が含まれています。
<げっぷが出る場合>
・第一三共ヘルスケア ガスター10
https://www.daiichisankyo-hc.co.jp/products/details/gaster/
・佐藤製薬 ハイウルソ
https://search.sato-seiyaku.co.jp/pub/product/2224/
・興和株式会社 キャベジンコーワα
https://hc.kowa.co.jp/otc/7469
ガスター10は、胸やけや吐き気、胃もたれを感じている場合に服用すると良いでしょう。ハイウルソとキャベジンコーワαは、胃を動かす成分が含まれています。胃に溜まった空気は、胃の動きが鈍い状態だと下に送り込まれないため、上に上がってきてしまいます。胃から下に空気を促すためにも、胃の動きを活発にする必要があり、これらの市販薬はその働きを促すと考えられます。
原因に合わせて呑気症の対策をしよう
呑気症は空気を大量に飲み込むことで発症する病気です。歯の噛みしめによって、空気を飲み込む回数が多くなり発症することもあります。また、げっぷやおならの回数が多くなるほか、頭痛や肩こり、顎の痛みが生じる方もいます。
げっぷやおならの回数が増える原因は、呑気症とは限りません。まずは、内科を受診しましょう。歯の噛みしめが気になる方は、歯科医院を受診しましょう。生活習慣や食生活を見直して「スプリント」を装着するなどの対策を実践してくださいね。
歯科医院を受診する際は唾液検査も受けよう
歯科医院を受診する際には、唾液検査も受けてみましょう。唾液検査は、水で10秒ほど口をすすぐだけで行えるシルハがおすすめです。シルハは、下記の6項目を検査・測定します。
測定項目 |
わかること |
むし歯菌 |
むし歯の元となるむし歯原因菌の活性度 |
酸性度 |
歯を溶かしてしまう酸の強さ |
緩衝能 |
酸性になった口の中を中性に戻す力の強さ |
白血球 |
菌の繁殖などにより生じた炎症の度合い |
タンパク質の量 |
出血などの口のトラブルや細菌の繁殖 |
アンモニア |
口内の清潔度 |
シルハの検査結果は、むし歯や歯周病の予防にも役立つでしょう。シルハを導入している医療機関は、こちらからチェックできます。
監修医師:めじろ内科クリニック 久野伸夫先生
東京都豊島区のめじろ内科クリニック院長。1993年3月 国立山梨医科大学卒業。山梨県厚生連健康管理センター内科勤務、日本赤十字社医療センター第1内科勤務を経て、2006年12月に現在のクリニックを開業。内科のほか、消化器病、糖尿病についても専門的に診療している。
めじろ内科クリニックさんのホームページはこちら
http://www.mejironaika-cl.jp/