(2022年12月22日公開)
「むし歯を削らない」そんな治療があれば気兼ねなく歯科医院に通えるのではないでしょうか。実際に昨今では、むし歯を削らない治療法に注目が集まっています。耳元でキーンと鳴る機械音が苦手な人や、施術中の痛みが怖い人に、むし歯を削らない治療法について詳しく解説します。
むし歯(虫歯)は削らないほうがいい?
昔からむし歯治療といえば、歯を削るのが普通でした。むし歯を削ることのメリットとして挙げられるのは、保険が適用できるため比較的治療費を抑えられる点です。初期段階では1,500〜3,000円、重度でも20,000円程度で治療ができます。
しかしその反面で、デメリットもあります。
実は、歯は削れば削るほどむし歯になりやすくなるのです。むし歯による治療の約70%が治療後の再発によるものと言われており、このような状態を「二次むし歯」と言います。
歯を削ると、その部分を補うために詰めものなどの修復物が必要になります。必要に応じて歯型を取り、精巧な修復物をつくりますが、その修復物と削った歯の間に目に見えない隙間ができることがあります。するとその隙間からむし歯菌が入り、新たなむし歯が発生してしまいます。これが、歯を削ることによりむし歯が再発しやすくなる理由です。
20代~60代の一般の方800名を対象に行われた調査によると、以前にむし歯治療をした歯を再治療した経験は20代でも23.1%に及び、60代では60.0%の方が経験していると報告されています。
出典:歯の神経を守っていますか?神経を抜いた経験者は20代で3人に1人、働き盛りのオトナ世代から要注意!(一般社団法人 日本歯内療法学会 2022年11月4日発表資料)
このように、一度むし歯の治療を行うと再発のリスクが高まるため、極力歯を削らないで済むようにむし歯を予防すると同時に、できてしまったむし歯も削らないで治せる方が望ましいです。
むし歯(虫歯)は削らないで治せる! その理由
むし歯を削らない治療法というのは、聞き慣れない方も多いかもしれません。しかし、昨今ではむし歯を削らず治せるようになってきています。ここではその理由についてご紹介します。
初期のむし歯なら口内環境の調整で改善可能
初期のむし歯であれば、口内環境を整えることで改善できることがあります。
むし歯菌は、飲食などで摂取した糖分をエサに酸を作り出します。するとこの酸が歯を溶かし、「脱灰」というむし歯の原因となる状態を作り出します。
そのため、毎日丁寧に歯を磨き、磨き残しの少ない状態にすることが、むし歯予防につながります。また、すべての汚れを落とすことは難しいので、定期的に歯科医院でクリーニングを受けると良いでしょう。
「脱灰」についてはこちらの記事で詳しく紹介しています。合わせてご覧ください。
むし歯治療の進化で「削らない治療法」が誕生
歯を削らない治療法には「薬物を塗布する」「レーザーを当てる」などがあり、むし歯部分を溶かし、むし歯菌を殺菌する治療を行います。
むし歯を削らない治療のメリットとして下記が挙げられます。
- 治療時の痛みが少ない
- 基本的に歯の神経が残せるため、歯の寿命を縮めない
- 1回で治療できる範囲が広く、治療期間が短縮できる
削らないむし歯(虫歯)治療の一例
薬剤でむし歯部分を溶かす「カリソルブ治療」
カリソルブ治療は、むし歯部分にジェル状の薬剤を塗って柔らかくし、そこだけを取り除く方法です。周りの健康な歯をほとんど削らずに済むだけでなく、神経を取る必要がないのが最大のメリットです。神経を取ると、歯にヒビが入りやすくなったり、化膿しやすくなったりします。そのため、カリソルブ治療により神経を温存することで、これらのトラブルを起きにくくできるのです。
一方で、デメリットとしては、むし歯が進行している場合は適用できないことです。そのため、神経に達していない中等度のむし歯までに有効な治療と言えます。
「むし歯の見分け方」についてはこちらの記事で詳しく紹介しています。合わせてご覧ください。
セメントの殺菌力で無菌化する「ドックベストセメント治療」
ドックスベストセメントと呼ばれる歯科用のセメントをむし歯部分に塗ることで、むし歯菌を殺菌する治療法です。
大きなメリットとして、一度治療を行うと、むし歯再発のリスクを減らすことができます。デメリットとして、変色したむし歯を完全に取り除くことができない場合があるため、見えやすい部分にむし歯がある方や、外見的な美しさにこだわる方にはお勧めできません。
3種類の抗菌剤で無菌化する「3Mix法」
3つの抗生物質を混ぜ合わせた抗菌剤を歯の上に置いて密閉することで、むし歯の原因菌を無菌化し、自然修復を促す治療法です。
3Mix法には3つのメリットがあります。
- 治療の痛みが少ない
- 歯を削る量を少なくでき、神経を残せる可能性が高い
- 療費が比較的安く、治療回数が少なくなる
この方法は、抗菌剤を置く際に表面を少し削るため、まったく削らずに治療ができるわけではありません。
オゾンの殺菌力で歯を殺菌する「ヒールオゾン治療」
塩素の7倍とも言われるオゾンの高い殺菌力を利用して、歯を削らずにむし歯菌の殺菌を行う治療法です。オゾンを使った歯科治療については、ヨーロッパやアメリカなど海外を中心に多くの研究が行われています。
治療は非常に簡単で、オゾン発生器につながるキャップをむし歯の歯にかぶせ、40〜60秒間オゾン照射するだけです。痛みがほとんどないため、多くの治療経験者が「新しくむし歯ができた場合は、オゾン治療を選ぶ」と答えています。
なお、効果を持続させるために1年に1回程度治療を受ける必要があります。
レーザーでむし歯部分を蒸散させる「Fotonaライトウォーカー治療」
最後に、最新レーザー治療として、Fotonaライトウォーカー治療をご紹介します。これは、むし歯部分をピンポイントでレーザー照射することで、削ることなくむし歯を蒸発させる、痛みを伴わない方法です。
この治療には、主に以下の3つの特徴があります。
- 熱エネルギーでむし歯を蒸散させるため歯を削らない
- むし歯をほとんど削らないため、神経を最大限残せる
- レーザー照射による歯質強化効果で、むし歯予防も期待できる
それ以外にもさまざまな特徴があります。
そのためレーザー治療は、むし歯治療の新しい方法として注目を浴びています。
削らないむし歯(虫歯)治療にはデメリットもある
削らないむし歯治療のメリットをお伝えしましたが、もちろんデメリットもあります。
ここではデメリットを3つご紹介します。
保険適用外なので費用が高い
むし歯を削らない治療のデメリットとしていちばんに挙げられるのは、保険適用外ということです。軽度の治療でも5,000円程度かかり、高額のレーザー治療になると10万円程度になることもあります。
エビデンスが不十分な治療もある
保険適用外の治療法は、海外で有効性が認められているものの、日本の法律では有効性が認められていません。治療に使われる器具・薬剤が、医療機器や医薬品として認可を受けていないものもあります。治療を行う前に、歯科医師から十分な説明を受けて、納得をした上で治療法を選択するようにしましょう。
すべてのむし歯に対応しているわけではない
削らないむし歯治療は、すべてのむし歯に対応できるわけではありません。特に象牙質(ぞうげしつ)までむし歯が進行している場合は、歯を削る治療が必要になるだけでなく、状況によっては神経を取ることもあります。
そのため、日ごろから定期的に歯のチェックをし、痛みが出る前に治療をすることが大切です。
削らない治療を選ぶべき? 判断に迷ったら歯科医院に相談を
むし歯を削る場合と削らない場合のメリット・デメリットをご紹介してきましたが、結局どう判断すれば良いのか悩まれる方も多いことでしょう。結論からお伝えすると、ご自身で判断するのは難しいため、歯科医院に相談するのが最善の方法です。
信頼できる歯科医師を選ぶポイントは3つあります。
- 患者の話を丁寧に聞いてくれる
- 治療方針を丁寧に説明してくれる
- 適した治療法を、メリット・デメリットを含めて説明してくれる
インターネットで検索すれば、歯科医院のホームページや口コミ情報が多く出てきます。その中から自分が信頼できる歯科医院を探し、連絡してみることをおすすめします。
まとめ
むし歯を削らない・削る治療について解説しました。
どちらの治療方法にもメリット・デメリットがあり、選択することは難しいかもしれません。
しかし、一度削った歯は再生することができません。そのため、歯科医師としっかり相談し、自分自身が納得した方法で治療を受けることが大切です。
監修歯科医師:重永基樹先生
東京都新宿区西落合の哲学堂デンタルクリニック院長。1999年に愛知大学院大学卒業。2002年に現在のクリニックを開業。「なるべく削らない・抜かない・神経をとらない」方針で治療を行っている。
哲学堂デンタルクリニックのホームページはこちら
http://tetsugakudo.com/