毎日の歯磨きを効果的なものにするために、歯ブラシの動かし方や選び方など歯磨きの基本を解説した後、様々なケースを例にあげて、ご自身に合った歯磨き方法について解説します。
毎日の歯磨き、しっかりできている自信はありますか?
毎日しっかり磨いていても、意外と”十分に磨けている”方は少ないものです。
口の二大疾患と言われている「むし歯」「歯周病」は、いずれも歯に付着した細菌が原因なので、正しい歯磨きを行うことが口の健康を守るポイントです。
正しい歯磨きのポイントを解説していますので、毎日のケア方法を見直す参考にしてみてください。
基本の歯磨き
効率的に汚れがしっかり取れるように磨くには、基本となる歯磨きのポイントを守りつつ、自分の口の状態を知り、口の状態に合わせた歯磨き方法をすることが大切です。
まずは、基本の歯磨き方法のポイントを押さえておきましょう。
動かし方
大きく動かさず、細かく小刻みに動かしましょう。歯ブラシを横にしたときに、毛先が、歯と歯ぐきの境目まで当たっていることがポイントです。5 mm〜10 mmの幅を目安に動かし、1〜2本ずつ磨いていきましょう。1箇所につき20ストロークくらい動かすのがベストです。
歯は平べったいのではなく、少し丸みを帯びた形をしています。大きく動かすと毛先が当たっていない部分ができてしまいますので注意しましょう。
磨く時の力
歯磨きをする時の力は、歯ブラシの毛が曲がらない程度がポイントです。適切な力は150 gから200 g程度です。計りが自宅にある方は、ブラシを押し当てて確認してみましょう。
実際にやってみると想像よりも弱めの力だと感じる方が多いかもしれませんが、汚れは毛先で落とすことができます。
持ち方のイメージでいうと親指と人差し指、2本の指で歯ブラシを持ち、歯に押し当てるくらいの強さになります。
歯ブラシをギュッと握って持つ「グー握り」で持つとブラッシング圧が強くなりやすいので、ペンを持つように軽く把持する「ペン握り」がおすすめです。
ブラッシング圧が強いと、汚れが取れないだけでなく、歯や歯ぐきを傷つけてしまいます。これにより、「歯周病でないのに歯ぐきが下がる」「歯の根本あたりが削れる」「知覚過敏が起こる」などが起こります。
このような症状で歯科医院を受診する方は多く、ブラッシング圧の影響も考えられます。
「力いっぱい擦らないと磨いた気がしない」という方や、力の強い成人男性は、ブラッシング圧が強くなりがちなので注意しましょう。
磨く順番
汚れをしっかりと除去するためには、磨き残しを作らないことがポイントです。
あちこち磨いていると、磨き忘れや磨きにくい位置の歯磨きが足らずどうしても汚れが残ってしまいます。磨く順番に決まりはありませんが、自分で順番を決めて磨くことで対策ができます。
例えば、「左右どちらかの奥から順番に磨き、徐々に前歯の方に移動していく」という動きを、表側と裏側で繰り返し、最後に噛む面を奥から磨くことで、切れ目なく全ての歯を磨くことができます。
歯ブラシの選び方
正しい歯磨きをするためには、歯ブラシ選びも大切です。適切な歯磨きにプラスして、自分の口に合った歯ブラシを使うことでより歯の汚れを落としやすくなります。
歯ブラシのサイズ
基本的に小さめのサイズがおすすめです。歯ブラシの毛に指を当てて、縦の長さが、指1.5本分程度の歯ブラシがおすすめです。
歯ブラシ売り場に行くと、大きめのサイズの歯ブラシもたくさんありますが、成人男性でも、口の中は意外と狭いので、隅々まで磨くのには小さめのサイズが適しています。
ご高齢の方や持病をお持ちの方で、細かい動きが難しい方は、安定感のある大きめサイズが良い場合があります。
歯ブラシの毛の硬さ
ふつうタイプの硬さの歯ブラシがおすすめです。
かためのタイプは、歯や歯ぐきを傷めることがあります。汚れが落としやすいメリットがありますがデメリットの方が大きいです。持病や障がいにより力が入りにくい方には適している場合があります。
また、柔らかめのものは汚れの除去効率が悪くなります。歯や歯ぐきにかかる力がソフトだというメリットがありますので、歯ぐきを傷めている時や知覚過敏がひどい時に利用するのが良いでしょう。
極細毛のタイプも市販されていますが、極細毛は歯周ポケット内部の汚れを掻き出す目的で使用するものです。効果を発揮するためには、深い歯周ポケットの中に毛先を入れ込んで揺らしながら掻き出すという特殊な磨き方が必要となりますので、歯科医院で極細毛の指導を受けてみることをおすすめします。
まずは、毛の硬さ・毛のタイプ、共にふつうタイプのものを選びましょう。
歯科医院では口の状態に合わせた歯ブラシを知ることができますので、指導内容に応じて歯ブラシを変えていきましょう。
毛の植毛タイプ
- 真っ直ぐに植毛されたタイプ
- ギザギザカットにされたタイプ
- 段差をつけたタイプ
などがありますが、基本的には真っ直ぐに植毛されたタイプが良いでしょう。
ギザギザにカットされたものや段差をつけたものは、毛の長い部分がちょうど歯と歯の間に入らないと汚れが取れません。歯の大きさや並び方によってうまく入らない箇所が出てきます。真っ直ぐな歯面の汚れの除去効率が悪いというデメリットがあります。
真っ直ぐに植毛されたタイプであれば、動かし方によって融通が効きますので、多くの方の口に合います。
電動歯ブラシは良いの?
電動歯ブラシを使っている方もいると思います。普通の歯ブラシと電動歯ブラシ、どちらが良いということはありませんが、電動歯ブラシの方が取り扱いが少し難しくなります。
電動歯ブラシは、正しく使用すればブラッシング効果を高めることができます。
歯ブラシで歯磨きをする時のように、ゴシゴシと動かすのは間違った使い方です。電動歯ブラシは、毛先を歯面に当て、少しずつずらしながら汚れを取り除いて行きます。毛先が歯と歯の間や、噛み合わせの溝にも当たるよう角度をつけながら当てて行きます。
歯面に強く当てると、歯面を傷つけることがありますので、優しく当てるようにしましょう。
電動歯ブラシの種類によって振動の強さが違うので、押し当てる強さをはっきり決めることはできませんが、歯ブラシで磨く時の力(150 gから200 g)よりも弱めの方が良いでしょう。
汚れが残りやすい場所に注意!
歯には、汚れが残りやすい場所があります。歯磨きの時に意識して汚れを落とすようにしましょう。
歯と歯の間
歯と歯の間は特に汚れが溜まりやすい場所です。歯のカーブに合わせて歯ブラシを当てるようにしましょう。歯ブラシだけでは届かないところは、デンタルフロスや歯間ブラシを使用することで綺麗に汚れを落とすことができます。
歯と歯ぐきの境目
歯と歯ぐきの境目は、歯周病の原因となる細菌の汚れが付着しやすい場所です。
この部分の汚れをしっかり落とすと、歯周病の予防や進行を抑えることができます。歯ブラシの毛先が歯と歯ぐきの境目にしっかりと当たっていることを確認しながら磨くと良いでしょう。
奥歯の溝
奥歯の噛み合わせ部分の溝は、汚れや食べかすが残りやすく、むし歯ができやすい場所です。確実に溝の部分にブラシを当てブラシの先を小刻みに動かすと、しっかりと除去できます。
清掃補助用具を使用しましょう
ここまでで歯ブラシを使った基本の歯磨き方法を解説しましたが、実は歯ブラシだけの清掃では不十分です。歯ブラシだけを使用した場合は、全体の汚れの60%しか除去することができないと言われています。そこで必要なのが、清掃補助用具です。清掃補助用具を使用することで、汚れの除去効率が80%まで上がると言われています。
代表的な清掃補助用具を紹介します。
デンタルフロス
デンタルフロスは、歯と歯の間の汚れを取るための道具です。「糸ようじ」とも言われます。
歯ブラシだけでは除去できない歯と歯の接触点付近の汚れもしっかりと取ることができます。
デンタルフロスには、持ち手のついている「ホルダータイプ」と、巻かれた糸を必要分取って使用する「糸巻きタイプ」があります。
ホルダータイプは、持ち手の形状が違うF字型とY字型があります。
自分が扱いやすいと思う方で良いですが、F字は前歯に使いやすく、Y字型は奥歯に使いやすいので、両方とも試して扱いやすい方を選ぶと良いでしょう。
糸巻きタイプは、両手の中指に糸を巻き付けて、親指と人差し指で糸を張りながら利用します。慣れるまで難しいですが、自由に動かしやすいので、前歯でも奥歯でも効率良く汚れを除去することができます。
デンタルフロスで歯と歯の間の汚れを掻き出した後、歯ブラシを使うことでより効率的に汚れを除去できます。
歯間ブラシ
歯間ブラシは、持ち手の先に細長いブラシがついた道具で、歯と歯の間部分までしっかりブラシで擦ることができます。ブラシ部分の太さが4S〜LLまであるので、自分に合ったものを利用することが大切です。太すぎると歯と歯の間に入りませんし、細すぎるとスカスカでブラシが歯と歯の間の歯面に当たりません。
挿入時にほんの少し抵抗があるくらいのものが丁度良いです。ただし、歯の場所によってキツさが違う場合には、たくさんの太さの歯間ブラシを使い分けるのは大変ですので、狭いところに合わせて選びましょう。緩い場所は歯間ブラシを歯面に擦り付けるように意識すると良いでしょう。
歯間ブラシで歯と歯の間の汚れを掻き出した後、歯ブラシを使うことでより効率的に汚れを除去できます。
ワンタフトブラシ
一束の筆のようになったブラシです。
歯並びが悪く歯が重なっている場所や、親知らずの周り、一番奥の歯の後ろ側など、磨きにくい場所をピンポイントで磨くことができます。
使用のタイミングは、歯ブラシの前でも後でも良いので、やりやすい順番で使うようにしましょう。
自分の口に合った歯磨き方法
基本の磨き方にプラスアルファで行いたいのが、自分の口に合った歯磨きです。
歯や口の形態や、口の中の起きているトラブルによって、磨き方をひと工夫していきましょう。
具体的な例をいくつか紹介します。
口が小さい、口が大きく開けない方
奥歯の方まで歯ブラシを入れるのが難しいので、歯ブラシのヘッド部分が全体的にコンパクトな厚みの無い歯ブラシに変えてみましょう。ちょうど良いのが見つからない場合は、小さい子どもの仕上げ磨きに使う歯ブラシがおすすめです。持ち手が長くて、歯ブラシのヘッドが小さいので、奥歯の方までしっかり磨くことができます。
磨きにくい奥歯だけワンタフトブラシを使うようにしても良いでしょう。
歯並びに凸凹がある
歯が重なった部分や凹んだ部分に汚れが溜まりやすいです。
通常の歯ブラシを使用した後、ワンタフトブラシで溜まりやすい部分を重点的に磨きましょう。
親知らずがある
親知らずが半分埋まっている場合、向きが斜めになっている場合は、特に汚れが溜まりやすくむし歯になりやすいです。親知らず周囲はワンタフトブラシを使ってピンポイントで磨くようにしましょう。
抜歯やむし歯、矯正などの治療中
治療中の歯がある場合には、治療中の部位の周りをしっかり歯磨きをした方が良い場合、歯磨きを控えた方が良い場合の2パターンがあるので、注意が必要です。
例えば、仮の詰め物をしている場合や歯を抜いたばかりの場合は、詰め物が取れてしまうことや、歯を抜いたあとの傷を刺激してしまうことがあるので、その歯の周囲は強く磨かない方が良いです。
反対にこれから型取りをする予定の歯は、汚れが付着して歯茎に炎症が起きると、精密な型取りができなくなりますので、しっかり歯磨きをしてください。まだ削っていない歯はもちろん、既に削り始めている場合もできればしっかり磨いた方が良いですが、歯の状態により仮の詰め物をしている場合があります。詰め物の素材によっては強く磨けませんので、磨いても良いか治療の時に確認するのが良いでしょう。
また、初期のむし歯になっている歯は、今以上にむし歯が進行しないようにし、今後の治療の負担を減らすためにしっかり歯磨きをした方が良いです。
治療中の歯は、治療経過により、しっかり歯磨きをする方が良いのか、控えた方が良いのかに分かれます。自分で判断するのが難しい場合が多いので、治療中の歯科医院に確認するようにしましょう。
矯正中の場合は、通常時よりも汚れが溜まりやすいので、むし歯や歯周病にならないように、常に丁寧に磨くように心がけましょう。
歯がグラグラしている、歯ぐきが出血しやすい
歯周病菌が溜まりやすい歯と歯ぐきの間を中心に磨くようにしましょう。
歯磨きをすると出血をするかもしれませんが、歯ぐきの炎症が良くなれば出血しなくなってきます。出血しても痛みが無ければ、気にせずにしっかり磨きましょう。
口臭が気になる
口臭の原因の一つに、口内の汚れが挙げられます。汚れは細菌の集まりです。細菌は口臭の原因になるガスを発生するので、汚れが多いと口臭も強くなります。
歯ブラシで丁寧に磨いた後、デンタルフロスや歯間ブラシを使って歯と歯の間の汚れをしっかり取り除きましょう。舌の表面が白っぽくなっている場合は、舌磨きも加えると良いです。
歯科医院のブラッシング指導を受けてみましょう
歯科医院では患者一人一人の口の状態に合わせた歯磨き方法の指導を行っています。
磨きやすい場所ばかり磨く癖がある方には、磨き残しの場所を伝え、具体的な歯ブラシの角度や磨きにくい場所から順番に磨く工夫など、具体的な指導を受けることができます。
また、歯周病やむし歯の状態に応じて、歯ブラシの角度や当てる強さ、動かし方、清掃補助用具の適切な使い方まで、細かく知ることができます。
自分の口内の状態を知り、それに合った歯磨き方法を習得することができるので、一度指導を受けてみるのがおすすめです。
定期検診と合わせて、定期的にブラッシング指導を受けると、歯の健康を守ることができます。
今日から毎日のケアを見直してみましょう
毎日丁寧に磨いているつもりでも、実は汚れが取れていないかもしれません。せっかく時間をかけて歯磨きをするのですから、効果のある歯磨きをしたいものですよね。
今回解説した歯磨きのポイントをぜひ参考にしてください。
毎日の歯磨き時間をより有意義なものにするために、今日からでも日頃のケア方法を見直してみましょう。
執筆者:真野 彩乃(歯科衛生士)
約20年にわたり、街の歯科医院や行政機関でさまざまな年代の方の歯の悩みに寄り添ってきました。現在は、歯科衛生士養成専門学校での教育、地域の歯科保健活動に携わりながら、フリーランスとして歯科医療専門のライターとして活動中。
ホームページ:https://www.ayadw.com/