この記事では、舌が痛い原因は何なのか、舌が痛い時はどうすればいいのかを、症状別に紹介します。
舌の付け根や舌先が痛い、ヒリヒリするなど、舌に違和感や痛みがあるものの、そのままにしていませんか? 舌の痛みの原因となる病気にはどのようなものがあるのか、病院へ行く前の参考にしてみてください。
舌が痛い時に考えられる病気や怪我は?
舌が痛い時、考えられる病気や怪我には、さまざまなものがあります。ある研究では、舌の痛みを訴えた患者さんを調査した結果、原因で多かったのは、口腔カンジダ症、ドライマウス、口内炎の順でした。
舌に白い苔のようなものが付く: 口腔カンジダ症
舌に白い苔のようなもの(白苔)が付いている場合に疑われるのは「口腔カンジダ症」です。口腔カンジダ症は、カンジダ菌という真菌(かび)の影響によって舌が白くなる口腔感染症です。舌に痛みが出るほか、違和感を覚える、味覚障害が起こる、口角が赤く腫れたり切れたりするといった症状が現れることもあります。白苔はガーゼなどで拭えますが、無理に剥がすと赤く腫れ、出血することがあります。
もともと、カンジダ菌は口腔内の常在菌のひとつであるため、カンジダ菌がいるから病気というわけではありません。口腔カンジダ症が発症するのは、義歯の使用、唾液量の低下、感染症やがんの影響などにより免疫が低下してカンジタ菌が異常増殖することが原因です。白苔があり、痛みも伴う場合には医療機関の受診をおすすめします。ほとんどの場合、抗真菌薬の軟膏を塗ったり、錠剤を服用したりすることで治ります。
<口腔カンジタ症について下記の記事で詳しく解説していますので、参考にしてみてください。>
口の中が乾く: 口腔乾燥症(ドライマウス)
唾液が減少し、口の中が渇く「口腔乾燥症」でも舌が痛むことがあります。通常、唾液は1日に1~1.5リットル分泌されますが、口腔乾燥症になると分泌量はその半分以下に減り、舌は潤いがなくなりシワシワになります。唾液の分泌量は口呼吸や加齢が原因となり減少しますが、糖尿病や腎不全、更年期障害、薬の副作用などによっても減少します。
唾液が減少すると、むし歯や歯周病、味覚障害などを引き起こしやすくなるため、唾液の分泌を促す対策が必要です。食事をよく噛む習慣をつける、唾液腺マッサージをするなどが有効です。マウスウォッシュやジェル、ミストなど、口内を保湿できる市販品を活用するのもよいでしょう。
<市販品の例>
- モンダミンうるおうドライケア(マウスウォッシュ)
- コンクールマウスジェル(医療機関専売品)
- クリンスマイル薬用口腔保湿ミスト
食べ物などが触れると痛む: 口内炎・舌炎
舌の痛みの中で多いのは「口内炎」です。舌にできる口内炎は「舌炎」と呼ばれ、よく見られるのは白色や黄色の膜で覆われた小さな潰瘍です。軽度の舌炎は、生活習慣の乱れや疲労、ストレスなどによるものが多いです。十分な睡眠や規則正しい生活を心掛け、歯磨きやうがいで口内を清潔に保つことにより、大抵1~2週間で治まります。しかし、重症化すると歯ぐきや頬の内側など舌以外にも炎症が広がり、食事や会話も困難になるほどの痛みを伴うことがあります。
また、ビタミンB12の欠乏が原因で起こる「ハンター舌炎」という舌炎もあります。ハンター舌炎は、舌の裏側に溝ができて火傷のような痛みを感じたり、頭痛や立ちくらみ、めまいを同時に発症したりすることもあります。ビタミンB12の摂取には貝類(あさりやしじみなど)や、レバー類が有効です。ビタミンB12を配合した「エミネトン」や「ヘマニック」などの市販薬もあります。
ほかにも舌炎には、義歯や被せ物が触れたり自分で舌を噛んでしまったりしてできる外傷性のものもあります。このような外傷性の舌炎には、傷口に軟膏を塗布するのも有効です。「口内炎軟膏大正クイックケア」や「トラフル軟膏」などの市販薬があります。ほかにも患部に直接貼り付けるタイプの「アフタッチA」などの市販薬もあります。
<市販品の例>
- 口内炎軟膏大正クイックケア
- トラフル軟膏
- アフタッチA(貼付剤)
- エミネトン(錠剤・造血薬)
- ヘマニック(錠剤・造血薬)
ヒリヒリする: 舌痛症
見た目では舌に異常はないのになぜかヒリヒリするという方は、「舌痛症」かもしれません。舌痛症は「口腔灼熱症候群」とも呼ばれ、更年期の女性に発症しやすい傾向があります。特徴は、睡眠時に痛みは出ず起床後から徐々に痛みが増すなど、痛みに波があることです。ヒリヒリとした痛みや不快な感覚が1日に2時間以上、3カ月以上に渡って繰り返す場合は舌痛症の可能性が高いかもしれません。
舌痛症の明確な原因はわかっていません。舌痛症の患者さんの多くがストレスや不安を抱えていることから、精神的な負荷が関係していると考えられています。治療では、痛みを上手くコントロールできるようにする対症療法が行われます。ホルモン剤や抗うつ剤による内服療法もありますが、科学的根拠はまだ十分ではありません。ストレスが原因とみられる場合は、歯科を受診しても精神科や心療内科の受診を勧められることがあります。
舌痛症についてより詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
舌が赤くなり痛む: 鉄欠乏性貧血
舌のざらざらがなくなって赤くなり、ピリピリとした痛みを感じる時は「鉄欠乏性貧血」の恐れがあります。鉄欠乏性貧血は、鉄が不足し、赤血球を作れなくなることによって起こります。鉄は、ダイエット、妊娠、月経過多などで不足しやすくなります。一般的に女性が貧血を発症しやすいと言われるのはこのためです。
貧血では、舌の症状以外に倦怠感やめまいなどの全身症状が表れます。貧血が悪化すると舌に症状が出るだけでなく、他にも口角に炎症が起こる、食べ物が飲み込みづらくなるなどの症状も出るようになります。市販薬でおすすめなのは、「マスチゲン錠」や「ファイチ」です。ハンター口内炎の項で紹介した「エミネトン」や「ヘマニック」も鉄欠乏性貧血に有効です。
<下記の記事では、鉄分の働きや豊富な食べ物について解説しています。記事内では貧血対策におすすめなレシピも公開しているので、参考にしてみてください。>
舌の奥がズキンとする: 舌咽神経痛
とても稀な疾患ですが、舌の奥がズキンと発作的に痛む場合は、「舌咽神経痛」が考えられます。喉の奥にある舌咽神経の異常によって起こる疾患で、鋭い激痛が特徴です。1回の痛みは数秒~2分ほどで、同じ部位が日単位や週単位、月単位で痛みます。
痛みの原因は、舌咽神経が血管によって圧迫されて物理的に刺激を受けることです。神経を圧迫しているものが脳や舌にできた腫瘍などのこともあるため、痛みを引き起こしている原因は何なのかを探る必要があります。根本的な治療方法は、舌咽神経を圧迫している血管や腫瘍を剥離する外科的手術です。
しこりやただれができる: 舌がん
舌の側面や裏側にしこりやただれがあり、赤くなったり白くなったりしているという場合は、「舌がん」が疑われます。口内炎に似ているため勘違いしやすく、見た目だけで舌がんかどうか判断するのは難しいでしょう。2週間以上経っても治らない場合は舌がんの可能性を疑い、たとえ症状が軽くても、歯科や耳鼻咽喉科や歯科の受診をおすすめします。
口の中にできるがんは口腔がんと呼ばれますが、舌がんは口腔がんの半数以上を占める多さで、国内外問わず年々罹患率は高まっています。飲酒や喫煙、むし歯や合わない詰め物、口の中の不衛生などが発症の原因とされていますが、明確な原因はまだわかっていません。過度な飲酒や喫煙をしない、歯科の定期検診やむし歯の早期治療などで口内を常に清潔に保つことが大事です。
白いレースのような模様の炎症症状で痛みが出る: 口腔扁平苔癬(こうくうへんぺいたいせん)
扁平苔癬は粘膜の病気で、口内にできるものを「口腔扁平苔癬」といいます。口腔扁平苔癬は口腔がんになるおそれがある口腔潜在的悪性疾患であり、難治性の炎症です。銀歯や義歯の金属バネなど金属に接する部位に発症しやすいですが、舌に発症することもあります。レースのような模様の炎症が特徴です。模様は時間の経過とともに形状が変わり、赤みやただれを伴うこともあります。接触痛があるため、舌を動かすだけで痛んだり周囲に触れて出血したりもします。
発症の原因は明らかになっておらず、確実な治療法はありません。しかし、金属アレルギーや口内の汚れ、喫煙が関与している可能性が高く、これらを取り除くと症状が改善されることがあります。また、ステロイド剤、ステロイド噴霧薬、免疫抑制剤のタクロリムスなどを使用することで改善することが分かつてきています。
舌がしみる: 亜鉛欠乏症
見た目の症状はないのに慢性的に舌がしみるという場合は「亜鉛欠乏症」かもしれません。体内の亜鉛が不足して亜鉛欠乏症になると、口内炎や口角炎、味覚障害、食欲不振などの症状が出ます。舌がヒリヒリする舌痛症も亜鉛欠乏症が原因とみられるケースがあります。亜鉛は体内で作れないため、食品から摂取するのが基本です。バランスのよい食事を心がけていれば欠乏することはありませんが、食生活の乱れにより十分に摂取できないことがあります。レバー、牡蠣、しじみなど亜鉛を多く含む食品を摂取するほか、市販の亜鉛サプリを活用するのもおすすめです。
<亜鉛についてはこちらの記事で詳しく解説しています。亜鉛の豊富な食材を使ったレシピも紹介しています。>
舌の特定の場所が痛む場合に考えられる原因
舌のどの部位が痛むのかによって、考えられる原因は異なります。想定される原因を、痛む場所ごとに解説します。
舌の付け根が痛い
風邪を引いてビタミンが不足すると、舌の付け根に痛みを感じることがあります。舌が赤くなったり、ピリピリとした痛みがしたりするのが特徴です。風邪の引き始めから治りかけまで、痛みを感じるタイミングはさまざまです。ビタミン不足が原因の場合、十分な栄養摂取と休息が大切です。ビタミンB2(納豆や豚肉、卵など)やビタミンC(赤・黄ピーマン、ブロッコリー、キウイなど)を摂取することで症状は改善されます。
また、ストレス、亜鉛欠乏症、舌咽神経痛、義歯や被せ物のずれによる口内炎が原因の場合もあります。ストレスが溜まると口内が乾燥しやすくなり、それが悪化して舌の付け根が痛むことがあります。十分な睡眠や休息を取るとともに、市販薬を利用するのもおすすめです。2週間以上改善がみられない場合は心療内科や精神科を受診するとよいでしょう。
舌の先が痛い
舌の先が痛い場合に多いのは、舌痛症や亜鉛欠乏症です。ちょうど舌が当たる部分の歯が欠けていたり、詰め物が合っていなかったりすることで口内炎を引き起こしているケースもあります。
舌痛症の明確な原因はわかっていませんが、ストレスが原因であることが多いため、ストレスを軽減させるなど原因に応じた治療が必要です。外傷性の口内炎の場合は、一時的に「アフタッチA」や「トラフル軟膏」といった市販薬を利用するのもおすすめします。
舌の側面が痛い
舌の側面が痛い時は、口内炎、ドライマウス、舌痛症、扁平苔癬、ストレスなどが原因と考えられます。口内炎なら市販薬で、ドライマウスなら唾液の分泌を促すことで症状は改善されるでしょう。口内炎の市販薬には塗り薬や貼るタイプ、飲み薬などがありますが、早く治したい時は薬剤師さんに相談して併用するという方法もあります。なかなか治らないときは舌痛症や扁平苔癬の可能性を疑い、歯科や口腔外科を受診しましょう。
舌の裏側が痛い
舌の裏側が痛い時は、口内炎、火傷、舌がん、舌痛症などの原因が考えられます。口内炎・舌炎の市販薬としては、先に挙げたお薬以外に「口内炎パッチ大正A」や「ケナログ口腔用軟膏0.1%」などもあります。
また、熱い飲食物を摂取した時などの火傷によって舌の裏側が傷ついている可能性もあります。火傷の場合は患部を冷却し、細菌感染による重篤化を炎症を予防するために市販のうがい薬でうがいをするのが効果的です。痛みがなかなか治まらない場合は、舌がんや舌痛症を疑い、歯科を受診しましょう。
舌全体が痛い
舌全体が痛い場合は、口腔カンジダ症や鉄欠乏性貧血のおそれがあります。口腔カンジダ症は舌に白苔が付くのが特徴で、抗真菌薬の軟膏や錠剤が治療に適しています。鉄欠乏症貧血の場合は、舌のざらざらがなくなる、ピリピリと痛むといった症状が現れます。効果的な市販薬としては「マスチゲン錠」や「ファイチ」などがあります。
まとめ ます舌のどこがどのように痛いのか確認しましょう
舌が痛くなる病気にはさまざまなものがあり、痛みのある場所や痛み方、痛み以外の症状によっても各々原因も異なります。舌に不明な痛みがある時は、かかりつけの歯科や口腔外科を受診し、しっかりと診察してもらうことが大事です。原因を特定し、市販薬や病院での治療など、適切な対応をとってください。
監修歯科医師:小山 安徳 先生
埼玉県越谷市にある「パラシオン歯科医院」診療医長。
東京歯科大学卒業。
口腔衛生学を専門とし、衛生学歯学の博士号も取得。日々の診療に加えて東京歯科大学でも非常勤講師を務める。
「歯科医院に対するイメージが当院で少しでも変わってもらえれば」との思いで、良い治療を多くの患者さんに届けることをモットーに日々診療を行っている。
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